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駅を降りて路地に入る。
一定の距離を保ち、父親、進について行っているとゆっくり立ち止まった。
「酷いじゃないかぁ。急にいなくなっちゃうなんて」
そう言ってこちらを振り向く。
進の額には傷痕が生々しく残っていた。
「……」
「これか?」
その傷痕に手を当てる進。
「凄いだろ?痛かったなぁ」
「…何だよ、話って」
「ああ、そうだったな。……居なくなったんだよ」
「なにが」
「母さんが」
「…は?」
進は不気味な笑顔でこちらを見ている。
「な、何言ってるんだよ?」
「1年くらい前からもう居ないんだよ」
一歩、二歩と近づいて来る進。
「お、おかしい事を言わないでくれ!」
声を張り上げ、進を遠ざけようとするが止まることなく近づいてくる。
「おかしな事?だったら確かめに来いよ」
「……」
一歩一歩距離が狭まってくるのに耐えられなくなり、俺はその場から走り出した。
一度も振り向かず…あの時と同じように。
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