『 三橋 成真 』

6/15
前へ
/97ページ
次へ
駅を降りて路地に入る。  一定の距離を保ち、父親、(すすむ)について行っているとゆっくり立ち止まった。 「酷いじゃないかぁ。急にいなくなっちゃうなんて」  そう言ってこちらを振り向く。    進の額には傷痕が生々しく残っていた。 「……」 「これか?」  その傷痕に手を当てる進。 「凄いだろ?痛かったなぁ」 「…何だよ、話って」 「ああ、そうだったな。……居なくなったんだよ」 「なにが」   「母さんが」 「…は?」  進は不気味な笑顔でこちらを見ている。 「な、何言ってるんだよ?」 「1年くらい前からもう居ないんだよ」  一歩、二歩と近づいて来る進。 「お、おかしい事を言わないでくれ!」  声を張り上げ、進を遠ざけようとするが止まることなく近づいてくる。 「おかしな事?だったら確かめに来いよ」 「……」  一歩一歩距離が狭まってくるのに耐えられなくなり、俺はその場から走り出した。  一度も振り向かず…あの時と同じように。
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加