一頁 猫 壱 『猫宮イチカ』

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一頁 猫 壱 『猫宮イチカ』

スクリーム・ノート   一頁   猫 壱   『猫宮イチカ』    あぁぁあ、あぁ、女神様。う、麗しい女神様。  貴女の為であれば、猫は、どんな悲痛さえも受け入れられる。  その身に宿る、厭悪、消失、怠惰、不可解、憂鬱、焦燥、葛藤、え、エトセトラ…  何でもいい、何でもいいから、そのどれかを露わにして、私に、舐らせてはくれないだろうか?  猫は、その名の通りに、零したミルクを舐める様に、床のゴミ屑や、汚いシミと共に、キレイに舐め取ってみせる。それ程、一滴も残さず、貴女からの、あ、愛情を、この身体に取り込みたいのだから。  貴女は、気付いているのだろうか? 左斜め後ろの席から、毎日こうして、想いを届け様と必死な、無様なクラスメイトの事。  気付いているのであれば、何と報われ無い話しだろうか? ほんの少しでも、言葉を頂ければいいだけなのに、一言も、話してくれない。  何か一言でも頂ければ、猫は歓喜し、悦に浸った顔を晒し、「好きです」と、愛の告白をする事を心に決めているのに、同じクラスになって三日も経つのに、貴女は何も言って来ない。  あれがいけなかったのか? これが駄目だったのか? 数える己の不手際が、両手に収まり切れなくなっていく。一目でいいから、この瞳を見て欲しい。一目見れば、この心が、貴女で埋めつくされている事に気が付く筈なのだ。  そうで無ければ何だと云うのだ! こ、この目は、愛を訴えながら、貴女を見つめている。分かって、くれるよね? め、女神ともあろうお方が、気が付かぬ筈がない。そんな、気が付かないのでは? 等と考える事自体が失礼にあたるのだ!  あぁ、少しだけ、左を向いたなぁ。  左の席の女に話し掛ける為に顔を向けると、その麗しい横顔を拝む事が出来る。真っ白な肌、切れ長の瞳、あぁ、指が細長くて美しい。人差し指より、薬指の方が長いんだなぁ。ね、猫とは逆だなぁ。  ただ、その話し掛けられている女は誰なんだ。お前は何故普通に女神と喋っている? 目障りなんだよ。  ただ単に、女神と付き合いが長いというだけで、女神の友人という立ち位置に選ばれたその女に、嫉妬の念は膨らんだ。  その女は、天羽佑羽という名前だった。はっ、はぁはっ、名前の中に、二つも羽って漢字入ってる。親、どんだけ羽好きだよ。その女は、おしとやかな見た目も相まって、一部の奴からは天使等と呼ばれていた。  だが、猫は、女神の事しか見えていない。何故、そんな裏表の激しそうな女と仲良くするのか? ね、猫じゃ駄目なの?  女子中学校で育ったから、餓鬼臭い奴らしか見て来なかった。高校も女子校になって、何の変哲も無い毎日を送るのだろうと思っていた時に、女神は降臨した。長い髪の毛をファサッとかきあげ廊下をすれ違った様を、頭の中では絵画にしてとっておいてある。  その日から、猫は、女神に夢中なのだ。い、いつか、この想いを届けたい。う、受け入れて、くれるかなぁ?  休み時間に、聞き耳を立てていると、女神と天羽の会話が聞こえてきた。 「担任のさぁ、猪本って何かキモくない?」  なんと、美しい声色だろうか? 「そ、そうかな?」  なんだその、ヤカンの鳴る様な声は。 「女子高ってさ、イケメン採用しないみたいな風習あんのかな? 教師一人もイケメン居ないじゃん?」  あ、あぁぁぁ、もっと、その声を聞いていたい。 「いや、もしかしたら、佑羽達の事を思ってくれる、素敵な先生かもしれないよ?」  黙れ。何を女神に意見を述べている? 身の程を弁えろよ。 「マジかよ? ねぇ? えーと、あなたはどう思う?」  まさかの出来事だった。女神が、わざわざ後ろを振り返り、ね、猫に話し掛けてきてくれた。 「すっ、好きです」 「はっ?」    あれ? えっ、えっ、えっ、えっ、    アァァァァァァォァァァァァァァァ!    猫は、女神に話し掛けられたら、告白をするって決めてたから、条件反射で言ってしまった。こ、これじゃあ、猪本が好きって事になるじゃないか! 「そっか、近くでこんな話ししてゴメンね。佑羽、トイレ行こ」  べ、弁解、出来なかった。猫の青春は、ここで終わってしまうのかもしれない。  い、嫌だ。誰かに、知恵を授かろう。まだ、この学園生活を諦める訳にはいかない。  猫の青春は、首の皮一枚で繋がれているのであった。  
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