十五頁 鳥 肆 『尾行』

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十五頁 鳥 肆 『尾行』

十五頁   鳥 肆   『尾行』    今日は猫ちゃん、とても輝いてたなぁ。  あんなにみんなを魅了出来るダンスが踊れるだなんて、友達の私にくらい言ってくれれば良かったのに。  タレントになる為に、陰ながらいっぱい努力しているんだろうね。  でも、今日も犬養さんと一緒にすぐ教室を出てしまったなぁ。何か、作為すら感じるな。猫ちゃんとあまり話せて無いな。何か、思惑があるんだろうなぁ。  気を落として黄昏ていると、猫ちゃんが教室に戻って来た。 「猫ちゃん! どうしたの?」  彼女は、机から何かを取り出し、早々に教室を後にしようとした。 「わ、忘れ物をしてしまったんだよ。さ、さようなら」  やっぱり、距離を置かれてる?   ……違う。  猫ちゃんは、私から遊びに誘われるのを待っているんだ。  だって、こんな短期間に何回も忘れ物する人なんて居ない。いや、毎日してない?  ってか、忘れて帰って、困る物なんかあんま無くない?   シャイな猫ちゃんは、私からの誘いを心待ちにして、とんだ忘れ物キャラを演じているのであろう。  私もちゃんと、勇気を出さなきゃね! 「猫ちゃん!」 「ヒィィィィィィイ」  少しだけど、リアクションを間違えていると思うよ? 「きょ、今日は! 私! 時間があるんだよ!」  蛇喰のせいで早く出る事があるせいで、忙しいイメージを持たれてるのかな? 今日は暇なのだと伝えた。 「そ、そうかぁ、その時間、有意義に過ごすと良いんだよ」  はぁぁぁあっ?  もう。人が良いにも程がある。自分から誘うと、つまらなかった時に申し訳なくなるんだよね? 分かったよ。 「ど、何処に行く? 急だけど、猫ちゃん家に泊まりに行ってもいいかなぁ?」 「ヒィィィィィィイ」  流行ってるのそれ? 友達が居ないので流行りには疎いんだよ。 「猫ちゃん家に電話してみるね」  私は携帯を出して、アドレス帳を開こうとした。 「へっ? 待つんだよ! 何故猫の家電を知っているか?」 「お母さんに聞いたよ」 「何故母も言うのか……」 「当然じゃない? し、し……と、友達にだったら」 「し、とは? あっ、いや、言わなくていいんだよ……」  まだお互い、親友だなんて言い合うのは恥ずかしいんだよね? でも大丈夫。私達は出会ってまだ、一ヶ月も経っていないのだから。 「それじゃあ電話してみるね」 「待つんだよ!」 「へっ?」 「えっ、いや、今日は他の遊びをしてみるんだよ」  そっか、私は今まで、友達と遊ぶ経験が無かったものだから、楽しかった前回のお泊まりに固執してしまってたんだ。猫ちゃんは凄いなぁ。そんなに沢山のお遊びを知っているだなんて。 「他の遊び? それって、どんな遊びなのかな?」 「え、えーと……探偵……探偵ごっこだよ!」 「へぇー……楽しそうだね! どんな事をするの?」 「わ、わんちゃんを尾行して、バレずに家まで付けて行くんだよ!」  何でそんな事すんの? 同性のクラスメイトを付け回して何が面白いの? まさか猫ちゃん、犬養の事が好きなの?  ……そんな訳無いか! ヤバい! 友達への嫉妬が膨らんじゃってヤバい! 「分かった! やってみよう!」 「や、やってみるんだよ」 「お泊まりは来週だね!」 「へっ?」 「何曜日でも大丈夫だよ!」 「あっ、その……そうですか……」  それから、二人で教室を出て、足早に校門の前まで来た。 「そういえば、犬養さんと一緒に帰るんじゃ無いの?」  私は、胸につかえていた質問をぶつけてみた。 「へっ? 何で?」  何でって……いつも一緒に教室を出るんだから一緒に帰ると思うよね? 「いや、いいの」 「わんちゃんとは家が反対だから、校門を出たらすぐに別れるんだよ。ただ、教室だけは一緒に出てって頼んでいるだけなのだから」 「教室から一緒に出る事を頼んでるの? 何で?」 「あぁ、あぁぁぁあ! 理由を知られてはいけない人に理由を自ら喋ってしまってるんだよ!」 「はっ?」  理由を知られてはいけない人、って、私の事? なにそれ……  あぁそうか! そうして一緒に出て、忘れ物をした事を装って、私から遊びに誘われるのを待っていたんだね! 犬養まで使ってそんな計画を立ててくれただなんて、私は本当に鈍感だなぁ。 「ね、猫は、ね、猫は……」 「分かってるよ猫ちゃん。ありがとう」 「あ、ありがとう? ぴ、ぴぃちゃんの謎は深まるばかりなんだよ……」  校門を出て、猫ちゃん家とは逆方向に進んで行く。彼女はキョロキョロしながら、遊んでいるとは思えない程必死になって犬養の姿を探していた。  ねぇ? これ何が面白いの? 「あぁ! 居たんだよ!」  犬養をスーパーの前で見つけた。中へ入って行ったので、私達はスーパーの前で犬養が出て来るのを待つ事にした。 「猫ちゃんは、犬養さんの家知ってるの?」 「知らないんだよ。だから今日、突き止めてやるんだよ」  ヤバい! 猫ちゃんが探偵になりきっていてヤバい!  スーパーの前で中を観察していると、横のカート置き場で親子が言い争いをしていた。  母親が、「ねぇ! カートに乗るの? 乗らないの?」と怒鳴り息子は、「乗らない!」と息巻いていた。「いいの? 乗らなくていいんだね?」とまた母親が煽り、息子は「乗ーらーなーい!」と言って泣き出してしまった。  暫くそんなやり取りを横でやっているなぁ、と思っていたら、母親が、「もう! 乗るの乗らないの!」と息子に怒鳴った時に、猫ちゃんが「あっ、乗らないです」と、その母親に応えた。  えっ! 本気? いやまさか……冗談だよね? 母親は、一瞬だけ笑顔を作り、こちらを見つめる息子の手を取り店内に入って行った。 「猫ちゃん? カートは、乗らなくて良かったのかな?」  私は、猫ちゃんの冗談を無下にしない為に広げ様とした。 「そんな事をしたら、わんちゃんに見つかってしまうんだよ。あの親子も、ありがた迷惑にも程があるんだよ」  あれぇ……どういうお笑いなんだろ? まさか、見ず知らずの女子高生に主婦がカートに乗るのか聞いて来たって本気で思って無いよね? 難し過ぎるよ! 猫ちゃん、そのお笑い難し過ぎるよ!  そうこうしていると、犬養がレジで会計を終える姿が見えた。私達は物陰に隠れ、犬養がスーパーから出て、歩き出した方向へ進んだ。  犬養がアパートの中へ入って行き、ようやく謎の遊びも終わりを迎えようとしていた。 「家を突き止められたね。帰ろっか?」 「まだなんだよ!」  そのアパートは、外からドアがよく見えた。犬養がどの部屋に入って行くのかまで見届けるのか? 遊びの範疇を越えてない?   犬養が三階の真ん中のドアを開いて中へ入って行くのを見届けて、ようやくこの遊びも終わるのだと思った。ただその時、その部屋から入れ違い気味に出て来た母親らしき人を見て、猫ちゃんは唸った。 「今日決めてやるんだよ!」  何を? もー……猫ちゃんは、やるって決めたらいつでも精一杯なんだから。でも、そんな所も私は大好きだよ!  犬養の母親らしき人がアパートから出て来た時、猫ちゃんは走った。そして、その人を呼び止めた。  私が追いついた時には、何やら交渉が始まっていた。 「来週、何曜日でもいいので、わんちゃんの家でお泊まりさせて下さい!」  猫ちゃん急にどうしたの? 犬養の母親は応えた。 「お泊まりとか、わんちゃんと言われても……」  わんちゃんが誰か分かって無いのか。家族に話す時には、あだ名じゃなくて下の名前で言わないと伝わらないよ! 「猫ちゃん、確か犬養さんの名前は琴子だよ」  小声で猫ちゃんに言うと、小さく頷いた。 「ね、猫は、琴子さんの友達の様な者です! なので来週、お家に泊まらせてはくれないでしょうか?」 「そんな事を言われても……琴子から事情を聞かないとねぇ」  ごもっともだ。何故猫ちゃんは犬養の家に泊まりたいのか? 「琴子さんには、内緒にしたいんです……」  なんで? 「あっ! 来週、琴子誕生日だから、サプライズでお祝いしようって事ね!」  そうだったのか! 「へっ? そ、そうです! どうでしょうか?」  猫ちゃん、優しいなぁ。 「勿論いいよ! じゃあ日付が変わって誕生日の金曜日がいいかな!」 「あ、ありがどうごさいばず!」  猫ちゃん泣いてない? 友達想いだなぁ。だから尾行したんだね。ハッピーエンドで良かったよ。  犬養の母親と別れて帰宅する時、猫ちゃんから話し掛けてくれた。 「ぴぃちゃんとするって言っていたお泊まりは、わんちゃん家でするんだよ」  そうなの?  「えっ、私、犬養さんと話した事無いんだけど?」  気まずいんだけど? 「お泊まりは、わんちゃん家でするんだよ」  あぁ、駄目だ。完全に決めてしまってる。猫ちゃんは、やると言ったらやる子だから。私は、いつも振り回されてばっかだなぁ。でも、そうやって二人の関係を引っ張ってくれる人の方が良いんだろうなぁ。 「そっか、分かったよ。猫ちゃん優しいね。犬養さんにサプライズだね」 「へっ? あぁ、わんちゃんが誕生日で助かったんだよ」 「えっ?」 「へっ?」  猫ちゃんは、キョトンとした後、不気味な顔で微笑んだ。
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