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「見えました、あれが長がいる基地です」
小高な丘の上、普段なら人が通るのに使っていたのだろう幅広な土道を敷くようにして円形に構えられた陣地は、お世辞にも良いとは言い難い代物だった。
「長は何が好きなんだ?」
「えっ、その・・・言いずらいのですが・・・人間です」
成程、もう用意出来た。
手間を取らせないとは、素晴らしいではないか!
早速正面に構えられた入口へ向かおうとすると、物凄い勢いで茂みに引きずり戻された。
「な、何を考えてるんですか!!?死にたいんですか、殺されたいんですか!!?」
選択肢が1つだけだな。
「違う、長に会うためのアポを取りに行くだけだ」
「また訳の分からない事を!いいですか、一煌様は人間なんです!ゴブリンからしたら玩具か餌でしかありません。まぁ、オイラはそんな事絶対しませんけど・・・オイラは特殊というか、普通のゴブリンはもっとこう素行が悪くて粗暴的で短絡的なのばかりで、もし見つかりでも・・・って、あれ一煌様?
・・・いないーーーーー!!!!」
どんな人でも会ってみないと分からない。
それに、顔を突き合わせて初めてビジネスは始まるというものだ。
それはそれとしてだな・・・
ここは本当に本拠地なのか?
簡易的に造ったものとはいえ余りにも粗雑過ぎる。
丸太を並べただけの塀は親切にも真正面が開け放たれており、門どころか門兵すら見当たらない。
「邪魔をするぞ?」
中にも誰もいない――
争った形跡は無いので攻め込まれた訳でもなさそうだ。仕方無い、中をぐるりと回ってみるか。
丸太の塀が描く円の丁度中心に大きめのテントが組まれ、その周りには火を起こした跡や何かの骨、汚れた藁や布なんかが置きざらしになっている。
これは――酷いな。
「いたーーー!!!一煌様!オイラ今物凄く怒ってるの分かりますか!?話は聞かないは、勝手に居なくなるは、最悪の場所にいるは!
頼みますからもっと自分を大事にで」
「うるせぇーオラが寝とんが分からんのか!!」
テントから響き出した低いダミ声にテルは飛び上がって震え出す。
「いいいい、い、今ならまだ間に合います!早くここからッ」
震える手で必死に俺の腕を引っ張ったテルだったが、時すでに遅し。テントの布間から大きく太い緑色の腕が荒々しく伸び、ゆっくりとその姿を現した。
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