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円形の塀正面、ゴブリンの拠点唯一の出入口のど真ん中に立つと、踏み固められた広い土道が真っ直ぐに伸び、その遥か先には煙をあげた聖アリステリア城が見える。
アイツらはまだ生きているだろうか――
「お、お前!そこで何をしている!?」
「人間だー!!人間がいるぞー!!」
あっという間に出払っていたゴブリン達の軍勢がこの拠点に集結した。
数は百から二百といったところで、予想よりもずっと少ないが、この拠点の敷地面積からいってもこれで全てであろう。
「まずは怪我人からだ」
と言ってもこう騒がしいとどうしようも無い。
何処かに拡声器でも落ちてやしないものか・・・
「オメー達!!!!」
おぉ!一斉に静かになった。
見上げると、今にも怒りで頭が吹き飛びそうな長が後ろに立っている。
「オメー達、こげなとこで何しとる」
どうやら足元の俺には気付いていないらしい。
長の低く響く冷たい声に、ゴブリン勢は罰が悪そうに下を向き体を震わせているが、その中から1人が頭を低くしながら長の前に出た。
「す、すいやせん長・・・その・・・聞き違えかもしれやせんが、長の鐘の音が・・・」
長の額の筋がグネりと動くと、
ドンッ!!!
と力強く右足が地を踏み鳴らした。
「んあぁ?今、何か言ったか?オラがまちごうてると、オメーは言いたいんか?」
ずいっとデカい顔を突き出した長の前で、小さな彼はただ必死に頭を左右に降ってガタガタと震えている。
そんな姿を見て長は口元をニタリと歪ませると、総勢をゆっくりと見回してから余裕たっぷりに声をかけた。
「なぁ?オメー達、オラがまちごうたんか?違うよなぁ?コイツがまちごうたんやろ?」
ゴブリン達は次々に周りを見回しては小さく頷きだし、やがて『そうだお前だ』『お前が悪いんだ!』『皆コイツの嘘に騙されたんだ!!』と口々に罵声を浴びせ始め、その内容は移り変わり彼の内面、行い、容姿や家族に至るまでを真偽問わず侮辱し始める。
長はそれを嬉しそうに汚く笑うと、再び彼の前に顔を突き出した。
「ほぉら、やっぱりオメーが悪いじゃねーか。これはオラだけの意見じゃねえ、皆もそう言ってるんだ。オメー頭おかしいんじゃねぇか?なぁ!オメー達!」
ゲタゲタゲタゲタゲタゲタ・・・
いい加減耳に悪そうだな。
「おい、進行役。ちゃんとカウントしたのか?」
待っていても一向に気づかないようなので、寛大な俺は此方から一歩前に歩み寄ってやる事にした。
長の醜く垂れ下がった腹の肉を押し上げ、長の大きな顔の横を通り前に出ると、しゃがみこんで震えながら『すんません・・・すんません・・・』と小声で精一杯許しを懇願する彼の肩にポンポンっと手を置いた。
「まぁ、心優しき君の雄姿ある1歩を賛して、魔王が助けてやろう」
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