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「ざっと見たところやはり負傷者多数、死者も相当出たであろう。理由は明らか、武術も心得ない素人に安っぽい武器を持たせて戦場に放り込んだからだ」
「ゲェヒャッヒャ!
オラ達は優れた魔族だ!ひ弱な人間と同じにするなよ?オラ達は逃げねぇ、身を守るくれぇなら1人でも多く腸を掻っ捌く!それがゴブリンだ。証拠に人間を根絶やしにすんのも目前やったろぉが?」
確かに半分近くの仲間が死んでいった。
それは誇り高き死で、皆喜んで命を捧げてんだ。魔族が人間に宣戦布告してからはあっちゅう間にシマが変動したんだ。俺達小鬼族も他の種族に遅れを取るわけにゃいかねぇのも分かってる。
だけど――
「貴様はそれでも社長かぁぁぁ!!!
勝利?それがどうした!?
答えはこれだ!見ろ!傷付き、心身共に疲弊しきった社員達を!
貴様がぐうたらとテントで昼寝をしている間に
一体何人の社員が傷付いた!?
一体何人の社員が死んで行った!?
貴様がしたのは指揮統率などではない、貴様がしたのは、人が人の上に立つ上で決して犯す事の許されない大罪、パワハラだ!」
――コイツは、今一体何を言ったんだ?
あれは、自分の命でも、同胞の命でも、自分の地位や名誉、ましてや力量を守る言葉なんかじゃあねぇ・・・
この人間は、ゴブリンを守ると言ったんだ――
こ、こんなの信じられねぇ。俺は今生きているのか?
この人間は今、生死の淵にいるんだぜ!?
そこで口をついて出た言葉がこれなのか?
あはははは!!!
命もプライドも捨てて見ず知らずの、しかも魔族を庇うなんて俺には・・・いや、誰にもできやしねぇだろう。
魔王以外にはな――。
「ゲェヒャッヒャ!
ヒャアーッハハハハァーーー!!!
もうよせや、腹ぁ痛くなるやで!
ほぉかほぉか、よぉ分かった。
おい、オメー達この馬鹿頭おかしかなったさな!
オラが今楽にさせてやるけぇ!
人間なんぞに心配されんでも、コイツ達はオラの下で幸せさ。
お前を潰したらすぐ城さ戻して残りの人間も消す。これでオラの懐はパンパンよ!
ゲェヒャッヒャ!
ヒャアーッハハハハァーーー!!!」
「長は俺達を何も見てなんかいねぇ!!」
「んあぁ?」
気づくと俺は真っ直ぐに手を挙げていた。
怖かった。でも、
震える右腕を、震える左手で掴んで必死に挙げた。
「傷だらけでもう皆1歩も歩けねぇ!妻や子を、親や友を皆失った。それを悲しんでいいんだと教えてくれたんがその人だ!
魔族を見て、同じよぉに心を痛めてくれたんが魔王様だぁぁぁ!!!!」
腹の底から振り絞った声が静まり返った皆の上を走る。
「テメェーーーー!!!!オラに逆らったなぁぁぁぁ!!!ぶっ殺してやる!!死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
怒りで狂乱した長が、物凄い勢いで俺に襲いかかってくる。
おかしいな、あんなに怖かった筈なのに今はそんな気が全くしねぇ。
目を閉じると感じんだ・・・
なんか胸の辺りがすげぇあったけぇんだよ・・・
来るなら来やがれってんだ。これは捨てれねぇ、これを守れるんならこんなちっぽけな命、幾らでもくれてやらぁ!!!!
何も聞こえなくなった。
俺、死んだのか?
恐る恐る瞼を開いて見ると、そこには沢山の背中があった――
「み・・・みんなぁ・・・」
どの背中も震えている。
だけど、そこから伸びる傷だらけでの腕だけはどれも力強く空を突き上げていた。
俺は目から溢れ出す水を払い払い、この光景を必死に目に焼き付けようと瞼を開き続けた。
この景色は、今まで見た何より美しい。
だけど、もうきっと見られねぇんだろぉな。
一面に広がる緑色の背の中に1つ、他の誰よりも俺に一番近い場所には、真っ黒な背があった。
胸が焼けるみてぇに熱い。
この景色は、ぜってぇ忘れちゃなんねぇ景色だ!!
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