人間と魔族

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※ ※ ※ 「トリアージを付け次第、緑の軽傷者は奥に、黄と赤の重症者は手前に運べ。 動ける者の内、少しでも治療の心得がある者は手当にまわれ。 残りは俺の指示に従い動くように」 「「「へい!魔王様!!」」」 思ったよりも負傷者が多いな。 軽傷の者はなんとかできそうだが、重症者を治療するとなると、どうしてもこの拠点の粗悪さが壁になる。 「魔王様!テントの布、川で洗ってきましたぜ!」 「よし、大鍋の係に渡し君たちもそこに加われ、その後の指示は伝えてある」 「分かりやした!すぐに運びま」 「いや、少し待て。君は運び終えたら俺の元に戻って貰えるか?」 「えっ、お俺ですか!?へ、へえ!勿論です!」 この世界では、俺の医療知識がどこまで通用するのか分からない。 第一に、対象がゴブリンなのだ。 それに女神の言葉を借りるなら『根本的に創りの違う世界』だ、細菌やなんやどころか元素からして危うい。 こうなれば、取るべき手段は1つだけだ。 「お待たせしやした魔王様!俺の班は大鍋係に任せてありやす!」 「忙しいところすまない。先程は聞きそびれてしまったのでな、是非とも君の名前を知りたいのだが・・・良いだろうか?」 (えぇぇ!!?お、俺なんかが魔王様に名乗っちまっていいんだろうか・・・でも名乗らねぇと魔王様の意思に背く事になる。 んぬぬ・・・んぬぅ・・・) 「・・・分かりやした。 フランク。フランク=デノ=ロベルっていいやす」 「フランクか、いい名を貰ったな! ではフランク、早速要件だが――」 ※ ※ ※ 今日もいつも通り、空は暗く城内は湿っぽい空気と少しの血の香り。 白いアンティーク調でお気に入りのティーカップを片手に、お菓子を啄みながら人間(小鳥)のさえずりに耳を傾ける。 何も変わらない鬱々とした穏やかな日々。 憂鬱で健やかな、妾が好するものよ。 あぁ、煩わしくて果敢無くも愛おしい、どうかこのまま―― 「陛下、城で動きが・・・ゴブリン勢は敗走。ですが勇者召喚(・・・・)なる術を要したなどと、情報に胡乱(うろん)の言がみられ、只今精査に」 「よい。そのまま続けさせ、見たまま聞いたままを垂れ流させよ」 「御心のままに」 愛らしい淫魔(召使い)達は今日も良く励み心地よい、もっとだらけてくれれば尚の事。 さて、ティーカップを置いて堪能しようか。 妾の永遠に続く今と、果敢無く終わる今を―― 温かい血(おかわり)をティーカップに注いでな。 ※ ※ ※ 「作業は終わっているようだな、流石はゴブリンの長、仕事が早い」 ゴブリンの拠点より少し離れた道沿いに、寝そべるゴブリンの長の傍らには木製の大きな看板が立てられていた。 【〜この世界を平和に〜 お困りの方、何でも解決致します。 種族等問いません、闘う前に是非一度ご相談を!! 連絡先、ゴブリン領。 魔界社代表取締役魔王、鷺ノ宮一煌】 「あぁ、んだろんだろ!!なんたってオラは最強のゴブリンだでな!!」 得意げに立ち上がった長を後目に看板の出来や強度を確認したところ、予想よりも良い出来で正直驚いた。 「しかし大変だっただろう?こんなに大きな看板を1人で作り立てたんだ、力も体力もかなり消費しただろうなぁ・・・?」 「ゲェヒャッヒャ! あぁ、オラじゃなけりゃ無理だったろぉな! だけんどオラは最強! こんなもんじゃ動いたうちにもなんねぇさぁ!!ゲェヒャッヒャ!」 「そうか、それは頼もしい限りだ! やはり俺の人選に狂いは無かった。 それではその豪然たる体を存分に使って貰おうか!」 疑問でいっぱいの表情を浮かべる長へ、清々しい気持ちで笑みを送っていると、後方ゴブリンの拠点よりフランクの呼び声が聞こえてきた。 「魔王様ぁぁ!準備整いやしたよぉぉ!」 「了解したぁ!さてと、では行こうか長よ」 長を連れ拠点、いや元拠点と言った方が正しいか。 先程まで簡易的な基地があったその場所には、丸太製の塀も、大きなテントも骨の山も無く、あるのは大きな木製の人力車であった。 「なぁぁぁ何じゃこりやぁーーー!!!???」 青ざめた顔で腰を抜かし、尻もちをついている長へ俺は、負傷者を乗せた人力車の荷台の上から両腕を広げてみせる。 「今こそ、皆を統べる長の出どころだ。 苦しむ民達をその身をもって(・・・・・・・)救え!! 向かうはエルフの森! さぁ、最短で行こう!!」
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