エルフの森

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「問う、貴様らの目的は何か?」 車輪を踏みつけているエルフが口を開いた。 どうやらその者が彼らの代表らしい。 こんな状況で対面する筈では・・・と、嘆いていても何も始まらないな・・・ ま、ここまでの不祥事をおこしてもまだ交渉の席がある――流石は鷺ノ宮一煌()、といったところか! 「おい耳長共!このオラに向かって、弓さ向けたな!!!!」 物凄い剣幕で長がエルフの代表へ向かって走り始めると、周囲のエルフ達は戸惑いや恐怖であたふたするばかり。 そうこうしている間に長とエルフの距離は縮まり、声を発する間も無く美しい出で立ちのエルフの眼前には長の大きく歪な拳が突き出された。 ふんわりと拳からおこされた小風が、エルフの顔半分を覆っていた薄いフードを吹き落とす。 と、同時に真っ白な絹糸が花開いた。 「お、オメェ・・・女け!?」 すると彼女は肩をピクリとさせ、慌てて広がった長く艶やかな白髪を纏めてフードを深く被り直し、矢じりを向けた。 「動くな!我らの矢は毒矢である!幾ら図体や力が勝ろうと、我らの前では皆等しく死が訪れるぞ!!」 威勢とは裏腹に震える矢先と巨大な拳の間に割って立つと俺は彼女と向き合った、この上なく優しい笑みを浮かべて。 「大変失礼の数々申し訳ございません。 理由はどうであれ、全てこちらの不徳の致すところ、甘んじて罰を受けましょう。ですがそれは社長(魔王)である私の責です。彼等は関係ありません、どうか傷付き苦しんでいる彼等を哀れと思って、助けては頂けませんでしょうか?この通りお願い致します」 地に膝をつき、両手の平、額までも土で汚した。 あぁ、ここに来てからというもの俺は―― この俺が(・・・・)!頭を下げるなど元の世界でなら天地が返る程の大事なのだからな!! 覚えとけ女神!!!!あ、あと台座も。 「頼む。オラは馬鹿だけぇ許してくれ」 「「「「「お願い致します!!」」」」」 驚いた。 静かな空気の中、大きな地の揺れるような音と共に、あの頑固な長の真摯な言葉が耳に入ってきたのだ。 それに続き次々に響き出す地を踏みしめ頭を付ける音、そして必死な叫び。 どれも半日程前の彼等からは考えられないような姿であった。 「ちょっ、何!?」 ん?気のせいか?イントネーションに訛りがあったような・・・?いやいや、きっと気のせいだ。 そんな事よりも何だこの浮き足立った空気は!!! 威厳のある姿勢は最初だけか!? いや待てよ、よくよく考えてみると武力行使ではなく交渉を選んだ知将と俺は好感を持ったが、あれはただ単に臆していただけ?? あーあぁ・・・そうですか、そうですよね。 って、なるかぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何が、『ダークエルフ族は昔から他との交流を一切経ってきた種族です。寿命が長く知性的ですが、その分神経質で気難しい種族だとか・・・』だ!! 只の、夏休みは図書館で缶ずめになってて、新学期初登校、日焼けした生徒達の中で孤立と孤独を味わっている人達じゃないか!!! 同士!!!! あの頃は、家という牢獄の窓から、籠がいっぱいに詰まった自転車で駆けていく集団を見て、胸に隙間風を感じていたっけ―― 此方へ駆けてくる足音。 そうそう、その時に決まって卵とバターの匂いがしてくるんだ。 『坊っちゃま、恐れながらクッキーを焼いてみたのですが・・・お味を見て頂けますと・・・嬉しいです』 「姉ちゃん!!一体何がって、えーー!!??な、何!?このカオス!!ちょーやばたにえんなんですけど?!!」
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