エルフの森

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「え!?エル!?アホか!!来たらあかんやろ!」 「でも心配で!!今日はパピー、パーリーでKPだし!」 何だ何だ何事だ!? 方言と若者語のオンパレードなのだが・・・ 恐る恐る少し顔を上げてみると、知性的なダークエルフさんは盛大に姉弟喧嘩を繰り広げていた。 「馬鹿!今そんな事ゆーたら聞こえちゃうやんか!」 「そっか、てへぺろっ!俺チャンとしたことが、やってしまったンゴ!ミッフィ〇!」 おいおいおい!流石にそろそろ動かせて貰うぞ。 これ以上コイツらを喋らせたらとてつもなく不味い気がする上、こっちには時間がないのだ。 「お取り込み中ですが、返答を聞かせて貰いたい。今すぐに!!悪いが、内容次第では武力行使もやむを得ないと思ってほしい。 我々には時間が無いのだ!!」 静まり返った空気の中で微かに聞こえて来たのは、必死に痛みを押し殺す声や、荒い息遣い、苦痛に身悶え地を削る音。 「代理!此奴ら村に攻め入る気だ!撃った方がいい!!」 エルフの一人が弓を構えると、次々と他も続き再び切迫した状況となってしまった。 「ゲホッ・・・ゴホゴホッ・・・」 「一煌様!!」 テルの声に、俺は後ろへ走った。 「待て、撃つな!」 走っている途中、木の中でカタカタと音がなり、今にも毒矢が飛んで来そうであったが、そんな些末な事は今はどうでもよかった。 駆けつけると、テルは吐血して意識も危うい年老いたゴブリンを抱き起こしていた。 傍らに寄り添い血まみれの手を強く握ってやると、薄くなった瞼を薄らと開けて白く濁った瞳で此方を見つめてくる。 「ま・・・おう様、ワ・・・シは、もう・・・。捨てて・・・くだされ・・・」 「馬鹿を言うな、お前は貴重な人材だ。まだまだ働いて貰わねば困る。それが終われば老後だ。第二の人生だぞ?お前が望む事を思うまま存分にすればいい。この俺が全面的に協力するのだ叶わぬ事など無いぞ?」 それを聞いて老人は嬉しそうに微笑んだ。 しかし瞼は下がり、握った手も力が抜けて、荒い呼吸が小さくなっていく。 「爺さん!しっかりしろ!生きるんだ! これまで頑張ってきたんだろ? これからなんだよ、これからこの世界は平和になるんだ。なのに・・・死んだら終わってしまうじゃないか!!」 声高らかに救うと言っておいて俺は老人一人助けられないと言うのか・・・!? 普通の世界なら、この超エリートの俺の辞書には不可能の文字等無い。 だけどこの世界では・・・ 俺は地位も名誉も金も何も無い。 そんな俺(只の人間)に、本当に世界が救えるのか―― 「ねぇ!!俺チャンに何か出来る事ある!?」 真っ直ぐ届いた声に顔を上げると、青灰色の肌に白い髪。だがその髪はイメージに削ぐわない短髪のクリクリとした巻き髪で、長い耳には沢山のピアスが揺れる、風変わりなダークエルフの顔があった。 「エル、そこを退きなさい!!」 足音と共に指揮官の女性声が鋭く飛ぶ。 そうか、彼はあの時の弟。でも何故―― 彼は多くの傷付いたゴブリン達を見回すと、再び俺と老人を覗きこんだ。 薄紫と黄色が掛け合った目はアメトリンのように澄輝いている。 「嫌だ!俺チャン自分達が良ければいいってこの村が昔からマジ無理だったんだよね。俺チャンは助けて!って言われて見捨てるなんて出来ない!だってそんなのイケてねーもん、マジ萎えぽよだし!!」 彼が指揮官へ声を上げた途端、再び弦が引き絞られる。 その空気感は先程の姉弟喧嘩とは全く違う、上官への反逆なのだと彼の震える拳が物語っている。 言い方はあれだが――気に入った。 何をしていたんだ俺は。 この天才的頭脳と最も貴重なを無駄にするとは――。 松田に見られていたら良い笑いものにされていたな――。 俺は、そっと老人をテルに渡した。 そして、再びエルフの指揮官へ向き直り立ち上がった。 ――さて、最速で方を付けようじゃないか。
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