やってきたあなた

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

やってきたあなた

30過ぎて初めて子どもを授かった。 何度目かのチャレンジで、初めて検査薬に陽性が出る。何度も何度も説明書と見比べ、間違いではないか確認する。望んでいたことなのに、自分に起きたことが信じられない。 急にドキドキし始める。嬉しいのに、焦るばかりで全然喜べない。 ええと、どうしよう。 何せ、初めてなものだから、何をどうしたらいいか…そうだ、病院だ! 産婦人科を、検索する。数ある中でどこにしたらいいのか迷う。 「どうされましたか?」 妊娠の可能性を告げる。 「検査薬で陽性が出たのですが…」 「あ、それならほぼ確実ですかね」 こちらは初めてだけれど、相手は日常なので、受け答えのテンションが噛み合わない。 とりあえず予約し、その日が来るまで待つ。 たったの数日間がすごく長い。 「おめでとうございます」 先生に笑顔で告げられる。 確信に変わった瞬間。どう返答していいのかわからない。 「あ、ありがとうございます」 もっと素直に喜ぶものだと思っていた。確かに嬉しいはずなのに、顔が強張る。自分のお腹に手を当てる。確かに画面には見えるのに、ここにあなたがいるなんて、信じられない。 帰り道、やっと喜びがわいてくる。 私に、赤ちゃんができたんだ。何度も何度もお腹に手を当てる。 そうだ、まず夫に伝えないと。どうやって伝えよう。喜んでくれるかな。 思考が行ったり来たりして赤信号を見落としそうになる。 いけないいけない 必死で自分を落ちつかせる。 そうだ、仕事はどうしよう。 生活は、どう変わるのだろう。 押し寄せる不安。 それでも負けられない。 だって、あなたに会いたいから。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!