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「ここのギルマスはいるか!?」
全身鎧のいかつい大男が酒場に入ってきた。
騒がしい店内が一瞬で静かになった。
客は冒険者と一般人の半々くらいなのだが。
一様に我関せずとそっぽを向いてエールをすすったり串焼きを食べたりしだした。
「出てこい! レイドだ!!」
怒鳴り散らすこの大男は、オレたちとは別の大手ギルドの人間だ。将軍とかあだ名がついていて、オレたちの街ではちょっとした有名人。ギルマス以外の人間は全部自分の部下扱いしているから。
「大量の魔物退治が終わったばかりで疲れてんだよ」
オレは将軍の前に立った。
大手ギルドの人間だろうが有名人だろうが、こんな失礼なやつをうちのギルドマスターに会わせるわけにはいかない。
あの人はオレが守る!
「疲れてるのはどこも同じだっ!!」
将軍の怒りがヒートアップする。
と、ここで彼の背後から軍服の美女が現れた。
将軍がむやみにデカいせいで彼女が小さく見える。
「うちの脳筋が失礼しました」
参謀と呼ばれている彼女が頭を下げ、将軍にも同じように頭を下げさせる。
「いえいえ、うちのひよっここそ失礼しました」
オレの背後からも女性の声が答え、オレにも頭を下げさせた。
頭を上げて振り返ると、声の主が。オレたちのギルドのマスターだ。彼女を超える美女はいないと思う。
でも、ひよっこ扱いやめて。マジで。
「疲れているところ申し訳ないが、あらためて、レイドの手伝いをお願いしたい」
参謀も言ってることは将軍と同じ。
「そっちのギルドって大手じゃん。人数も多いし火力もデカい」
新米戦士のオレでも知っている。
「ええ、いつもなら私どものギルドだけで消化できるのです。こんな中小ギルドに頼る必要はありません」
「なにげに失礼だよ」
参謀の「自分たちは強い」アピールが腹立つな。ギルマスが何も言わないぶん、オレが反撃してやるぜ。
「1週間もあれば人数がそろうのです」
「あ、じゃあ行きます」
えぇー……。
ギルマスが参謀に二つ返事で快諾した。
彼女も戦えば強い。大手ギルドのアタッカーにも匹敵する。が、依頼されるとノーと言えないのだ。
「話が早くて助かります。出発は明朝、3日後に現地到着です。では」
言うだけ言って、参謀は将軍とともに去っていった。
言語は公用語なのに、内容が暗号だった。
店内に再び喧騒が戻った。
「あの、ギルマス。話がまったく見えないんすけど」
オレは不安でいっぱいだ。
「新人くんは欠席していいよ。あたしにべったりくっついてたら、また明日から2週間くらい休みなしだから、精神的に死ぬよ?」
ギルマスはひどいことを普通に言った。
オレたちや他のギルドは、実に今日まで100日連続魔物退治をしてきた。魔物が街の周りに突然、大量に現れ、昼夜問わず際限なく襲いかかってきたのだ。
「いや、行きます、大丈夫です。なので詳しい説明お願いします」
オレは言った。本当はぜんぜん大丈夫じゃない。今すぐ飯食って寝たい。
ギルマスは神妙な顔でうなずいた。地図を出して印をつける。目的地はオレたちの街から相当離れているらしい。
「さっきの脳筋ギルドのメンバーがそろうのが1週間後。でも魔物も村人たちもそこまで待てない。村が全滅しちゃう」
脳筋って言っちゃったよ、この人。
「でも移動に3日もかかったら結局間に合わないんじゃ……」
オレの計算ではそうなる。
「脳筋ギルドの先発隊が、今日入れて4日間がんばってくれる。あたしたちは残り4日を引き受ける。そしたら脳筋ギルドの後発メンバーが合流してめでたしめでたし」
簡単に言ってくれちゃったよ、この人。
脳筋ギルド並みに戦えと?
弱小ギルドなのに?
しかし!
オレがここで活躍すれば、ひよっこ扱いから卒業できるかもしれない。
しかもこの人ともっと仲良くなれるかも?
や、やべー。本気で負けられない戦いが始まった。
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