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同窓会
――なんだか、つまらないな。
懐かしいはずの喧騒から逃げて、僕は座敷の隅で泡の消えたビールジョッキを眺めていた。
その日、葉山高校三年五組は十年振りに再会した。
発案者は昔からお調子者だったクラスの人気者。いつの間にか招待されたSNSのグループで一ヶ月後に集まらないか、という旨のメッセージが送られたことから始まった。
別段遊ぶ予定もなければすることもなく暇を持て余していた僕は少し迷いながらも参加を決めた。
高校生最後のクラスだったこともあり、思い返せばそれなりに楽しかった気もした。だから久しぶりに会って旧交を温めるのも悪くないと思っていたのだ。
けれど参加してみれば置物同然の自分が出来上がったわけである。
主催者の人気者は今も変わらず己を中心に輪を作っては賑わいを醸している。羨ましいと言うよりは尊敬する。僕はみんなを楽しませるどころか、何を話して良いかすらわからない。
それが狭い居酒屋の座敷へぎゅうぎゅうに詰め込まれたせいか。会話の内容が互いの仕事のことばかりのせいか。それともみんなが十年の月日の間に変わってしまったからか。
――むしろ昔は何を話していたっけ。
ぼんやりとしているうちに段々と眠くなってくる。思い返せばジョッキを傾げる以外することがなかったから、普段よりハイペースで飲んでいた気がする。
同窓会が始まって一時間あまり。酔い潰れるには早すぎると思いつつ、どうせ話さぬなら寝てしまっても良いかと微睡に身を委ねた。
――そういえば汐見(しおみ)さん来てないな。
意識が沈むその時に、ふと思い出すのは高校生最後の日。そして自分の胸に後悔を刻んだ一人の少女。
同窓会に来れば彼女に会えると、淡い期待を抱いていたのかもしれない。
つい、苦笑が溢れた。
――なんだ、ふてくされてるだけか。
退屈の理由を理解して、意識は闇へと沈んだ。
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