最後の日

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最後の日

 学校の屋上が好きだった。  押し潰されそうなくらい窮屈な教室から飛び出して、一番高い所から町を見下ろせる唯一の場所。大した広さはないのだけれど、吹き抜ける風が気持ち良くて、しょっちゅう入り浸っていた。  まあ感じ方は人それぞれだろうけれどそんな屋上は言わずもがな大人気だ。いつもは沢山人がいて落ち着ける場ではない。しかし今日という日はさすがに一人のようで、なんだか寂しいような嬉しいような複雑な気持ちになる。  卒業という一大イベントを終えた他の生徒たちは、互いの卒業アルバムにメッセージを連ねたり、後輩にせがまれて学ランの第二ボタンをあげたり、部活に入っていれば部室やグラウンドで思い出に浸っている。  屋上は昼休みのような暇な時間に来る場所であって、感傷に浸る場所として最後に訪ねるには些か思い出が足りないのだろう。  僕とてそこまで屋上に思い出はないのだけれど、最後に来たいと考えるくらいには思い入れがあった。  ――最後に乗り越えてみようかな。  ふと、落下防止用のフェンスを前にして思う。フェンスは屋上の縁から一メートルくらい手前に設置されており、背丈の優に倍はある高さに加え頂点の内側が手前に曲がっている。言わば乗り越え防止用に返しが付いているわけだ。  このフェンスを乗り越えた者はまだいない。いくらフェンスが鉄製と言えど頂点まで登れば折れないとも限らないし、そんな危険な行いをすれば屋上の使用制限がかかるかもしれない。  ゆえに誰も登らない。ゆえに屋上は開放されている。危機意識と秩序ありきの場所というわけだ。  
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