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(そうだ……瞬に勝つには、自分から向かっていくしかない……足の痛みが何だ! 気迫では負けないぞ! 俺より先に……晴夏に告白なんかさせない……俺だって、晴夏のことが好きなんだっ!)
負けるものか――その一心で勇基は叫ぶ。
退いたら負けだ。前に出るしかない。飛び出すと同時に瞬の小手を狙う。その攻撃は、瞬の竹刀に阻まれた。
続けて面を打とうと、更に一歩踏み出す。しかし、その剣にいつもの冴えが無いことを瞬は読み取っていた。
冷静に勇基の一撃をかわし、突っ込んできた勇基と鍔迫り合いになる。
互いに一歩も譲らずに押し合っていると、瞬の口元が動いた。
「……やめろ、勇基。その足じゃ、俺には勝てない」
ハッと目を見開く勇基。
勇基が足を挫いた時、その場にいた瞬は当然そのことを知っていた。
決勝まで勝ち進んできたものの、やはり勇基が本調子では無いことを長年の付き合いから察していた。
「だから……突いてきたのか……?」
そして勇基もまた、幼馴染の心情に察しが付いた。
小学生の時、禁じ手である突きで勇基を負かしたのは他でもない瞬だった。
あれ以来、勇基の体は突き技に対して恐怖を覚えてしまった。
何より勇基自身が、瞬に気後れを感じるようになってしまっていた。
その勇基の心境に、幼い頃からの仲である瞬が気付かないはずがない。
(確かに……俺は未だに、小学生時代のトラウマを引きずっている。正直に言って、突き技が怖い。だから……瞬は試合開始と同時に、突きを食らわせてきたのか……)
それによって勇基の闘争心を挫き、試合を早々に終わらせるために。
試合が長引けば、それだけ勇基の足に負担が掛かることになる。
親友の――そして、これからも共に剣の道を志すライバルの身を案じての行為だった。
「分かれッ」
膠着状態が長引いた二人を、主審が引き離す。
一足一刀の間合いに戻ったところで、勇基の目が光る。
その眼光の鋭さに瞬も気が付いた。「舐めるなよ!」と突き刺してくる視線に。
勇基の気持ちは折れてはいない。まだ、やる気だ……瞬に勝つつもりでいる。
そんな気持ちが、勇基の構えにも表れていた。
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