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昼過ぎから、生温い風が吹き始め晴天なのに雷が鳴り始めた。
窓を開けて空を見上げると、龍が何柱も飛び回っている。
正しくは、透明で姿は見えない筈なのに確かにそこにいる事がわかった。
激しく動き回る度に キラキラとした鱗が飛び散って、それが雹となり降り注いだ。
昭和荘の屋根に当たる音が響く。
それと同時に雲が湧き立つように現れ、真っ暗になってしまった。
ピカッと空が光ったかと思うと、同時にアパート全体を揺さぶる様な轟音が響いた。
それはまるで街を目掛けて落ちてくる様だった。
バケツをひっくり返した様な雨ってのは、まさにこの事。
街中が水浸しになっていく。
小高い丘の上にアパートを建てたのは、爺ちゃんに先見の明があったからなのか?それとも狭山くんのお勧めエリアだったからなのか?
母さんが言った通り、1週間雨は降り続いた。
買い物へ行って正解だったって事だ。
食料も水も、充分にあったし我が家は孤立無援でも、無問題。
狭山くんが、ぶつぶつ文句を言いながら帰ってきた。
「…ったく!人使いが荒いんだよ。」
「狭山くん。お疲れ様。母さんがお酒と米を用意してくれたよ。疲れてるだろうからって。」
「おう。ありがとな♪」
そう言いつつ、生米と酒を徐に流し込んだ。
「ぷはぁ…生き返ったよ。」
PCをオンにしようとした狭山くん。
「あ…電気もガスも止まっちゃってるよ?」
復旧は、数週間掛かるとラジオで言ってた。
「うわ〜マジか?オンライン・イベントが、あるから早めに帰ってきたのによぅ…そりゃねーぜ!」
狭山くんは、大きなため息をついて、頭を掻きむしった。
そしてキラキラとした鱗が飛び散る、また掃除機の出番だ。
「だって、狭山くん達が水浸しにしちゃったんだよ?」
人間よりも少なくとも賢いんだから、そろそろ人間界のことも学べと思う。
「あーあ。だから送電線にだけは、雷落とすなよって言っといたのに‼︎」
それよりも、神様たちの不条理さをどーにかした方が良いよな?
「今回は何があったの?」
「街の、公園の傍の古い祠があっただろ?」
戦前から或る祠で、何が祀ってあるのかも爺ちゃんさえも知らなかった。
「うん。」
「あれはな、アホの晴明が日本観光に来てた、中国のジジイを悪さするからって閉じ込めてたのさ。」
…爺って言うぐらいだから、物凄い老齢の龍って事か?
「何も考えずに、ぶっ壊したもんだから召集が、掛かったんだ。」
「召集?」
「ああ…単なるパリピッピのさよならパーティ。閉じ込められてたもんだから、ジジイは、この土地にお礼参りしたかったんだとさ。」
「見知らぬ土地に来て、悪さばかりしてたら、そりゃ迷惑だよ。閉じ込められて当然じゃ無い?」
「年寄りってのは、気難しいもんなんだよ。」
「それで、一年の降水量分の雨を1週間降らせたって訳?」
僕は、呆れてしまった。
「あ〜怠ぃ怠ぃ…。」
狭山くんは疲れもあったのか、そのままトグロを巻いて、ふて寝してしまった。
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