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その音を聞くと、母さんが業務用のデカイ掃除機を持って上がって来た。
「夕食迄には帰るってさ」
家族のみんなは、この音を聞くと、早速空っぽになった狭山くんの部屋を片付けるのがお決まりの流れ。
「そう」
母さんは、さっさと掃除機をかけ始めた。
ガリガリと物凄い音を立てて、狭山くんの鱗を吸い上げていく。
「これ…漢方のお店にとか売れないのかしらねぇ…。」
母さんは文句を言うでもなく、淡々と掃除を始めた。
売れる訳が無い。誰もドラゴンの鱗だなんて言っても信じてくれる筈も無い。
…見た目は、ただのガラスだもの。
「ねぇ…なんで狭山くんは、“狭山”って名前なの?」
「なんだったっけねぇ…もう忘れちゃったわよ。お爺ちゃんが、若い頃だったから」
狭山くんは、我が家に居て当たり前の存在だが、引篭りなので、誰も我が家にドラゴンがいるなんて思っていない。
…言ったところで、誰も信じてくれないけど。
母さんは丁寧に何度も掃除機を掛けた。でないと、小さな鱗の欠片で足を怪我するからだ。
「フローリングの方が、掃除は簡単なんだけどねぇ。狭山くんは、畳が良いって言い張るのよねぇ」
母さんはぶつぶつと 大きな声で独り言を話している。
「あ!思い出した。狭山くんの名前の由来…確か日本で初めて出来たダムの名前に因んで…だったみたい。古事記とか?日本書紀?の中にあったとか…。」
どう考えてもおっさん臭い名前だ。
「爺ちゃんもうちょっと捻りが効いた粋な名前を思いつかなかったのかね?」
「そうかしらね?家の外で話してても、”狭山さんがね“って言ってても、まさか誰も龍の話をしてるなんて思わないでしょ?」
…確かに。
爺ちゃんには、先見の明があったってことだな。
夕食迄に帰ってくると言ってた狭山くんは、2時間ほどで戻ってきた。
お土産にピラルクをくれた。
ワシントン条約で禁止されてるらしいが、川の神様の端くれの狭山くんには、関係無い。
ピラルク1匹で、我が家の家族が1年食えるほどの量だ。近所にこっそりお裾分けもしている。
捌くのは大変だが、家計的にはとっても助かっていると母さんは感謝してる。
戻って来た狭山くんは、手洗い洗車したばかりの車みたいに、水垢も無くカビだか苔だか分からんものも綺麗に取れて、鱗の端が、蛍光灯の灯でキラキラと七色に光っていた。
「あ〜疲れた。当分…外とか無理…。」
狭山くんは、綺麗になった部屋で塒を巻くとそのままいびきをかいて寝てしまった。
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