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簡易用トイレ、水、乾電池…母さんは、せっせとカートの中へとものを入れていく。
パートで出勤中の近所の田中さんが、俺達を見つけた声を掛けてきた。
「ヒロシちゃんも、一緒にお買い物なんて珍しいわねぇ。あらご家族でキャンプにでも行くの?」
「え…ええそうなの」
母さんが、そんな事言うから俺も慌てて頷いた。
「相変わらず仲が良いのね〜。家族揃ってお出掛けなんて」
バタバタと買い物を終えて車に乗り、荷物を俺が乗せている間に母さんは徐にラジオを付けた。
一向に荷物を乗せるのを手伝う様子をみせない母さんをよそに、黙々と荷物を乗せる。
「こんなに買っちゃって…あとは助手席に乗せるしかないじゃ無いか」
大きな独り言をいうと、母さんがしーっと口に手をやった。
ラジオからは季節外れの台風が発生したと言っていた。今のところ高気圧が頑張っているせいで、日本上陸はしなさそうだと伝えている。
そうか…これを心配してたのか。
「なんだよ。上陸しないって言ってるじゃん」
そこで母さんは、再びしーっ!聞こえないじゃ無い…と、俺を見て言った。
そして日本上陸は無いと言い切ったお天気ニュースはあっさりと終わってしまった。
「ゲリラ豪雨が....巨大な台風が来るわよ」
俺は、雲ひとつない空を仰いだ。
…本当かよ。
昨日まで、確かに雨は降っていたけれど俄には信じがたい。
「街が沈むわ…。」
母さんは、ハンドルを握ったまま静かに呟いた。
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