ちょっと復讐へ

5/5
前へ
/9ページ
次へ
昼過ぎから、生温い風が吹き始め晴天なのに雷が鳴り始めた。 窓を開けて空を見上げると、龍が何柱も飛び回っている。 正しくは、透明で姿は見えない筈なのに確かにそこにいる事がわかった。 激しく動き回る度に キラキラとした鱗が飛び散って、それが雹となり降り注いだ。 昭和荘の屋根に当たる音が響く。 それと同時に雲が湧き立つように現れ、真っ暗になってしまった。 ピカッと空が光ったかと思うと、同時にアパート全体を揺さぶる様な轟音が響いた。 それはまるで街を目掛けて落ちてくる様だった。 バケツをひっくり返した様な雨ってのは、まさにこの事。 街中が水浸しになっていく。 小高い丘の上にアパートを建てたのは、爺ちゃんに先見の明があったからなのか?それとも狭山くんのお勧めエリアだったからなのか? 母さんが言った通り、1週間雨は降り続いた。 買い物へ行って正解だったって事だ。 食料も水も、充分にあったし我が家は孤立無援でも、無問題。 狭山くんが、ぶつぶつ文句を言いながら帰ってきた。 「…ったく!人使いが荒いんだよ。」 「狭山くん。お疲れ様。母さんがお酒と米を用意してくれたよ。疲れてるだろうからって。」 「おう。ありがとな♪」 そう言いつつ、生米と酒を徐に流し込んだ。 「ぷはぁ…生き返ったよ。」 PCをオンにしようとした狭山くん。 「あ…電気もガスも止まっちゃってるよ?」 復旧は、数週間掛かるとラジオで言ってた。 「うわ〜マジか?オンライン・イベントが、あるから早めに帰ってきたのによぅ…そりゃねーぜ!」 狭山くんは、大きなため息をついて、頭を掻きむしった。 そしてキラキラとした鱗が飛び散る、また掃除機の出番だ。 「だって、狭山くん達が水浸しにしちゃったんだよ?」 人間よりも少なくとも賢いんだから、そろそろ人間界のことも学べと思う。 「あーあ。だから送電線にだけは、雷落とすなよって言っといたのに‼︎」 それよりも、神様たちの不条理さをどーにかした方が良いよな? 「今回は何があったの?」 「街の、公園の傍の古い祠があっただろ?」 戦前から或る祠で、何が祀ってあるのかも爺ちゃんさえも知らなかった。 「うん。」 「あれはな、アホの晴明が日本観光に来てた、中国のジジイを悪さするからって閉じ込めてたのさ。」 …爺って言うぐらいだから、物凄い老齢の龍って事か? 「何も考えずに、ぶっ壊したもんだから召集が、掛かったんだ。」 「召集?」 「ああ…単なるパリピッピのさよならパーティ。閉じ込められてたもんだから、ジジイは、この土地にお礼参りしたかったんだとさ。」 「見知らぬ土地に来て、悪さばかりしてたら、そりゃ迷惑だよ。閉じ込められて当然じゃ無い?」 「年寄りってのは、気難しいもんなんだよ。」 「それで、一年の降水量分の雨を1週間降らせたって訳?」 僕は、呆れてしまった。 「あ〜怠ぃ怠ぃ…。」 狭山くんは疲れもあったのか、そのままトグロを巻いて、ふて寝してしまった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加