彼女とカメラと、それからおれと。

4/5
前へ
/5ページ
次へ
「あの、これ現像したいんですけど。」 丁寧に対応してくれた店員さんは、携帯にデータをいれるかCDディスクでのお渡しになると言った。 いつのまにか携帯に送ってもらえるようになったか。 彼女は写真をパソコンにまとめていたのでCDディスクでもらうことにした。きっと携帯にもらったほうが楽だけど。 帰り道、彼女のみる世界が早く知りたくて、いつのまにか急ぎ足になっていた。 家に帰ってパソコンをあける。パスワードは彼女の誕生日だなんて、なんとも単純だなと思う。 CDディスクを入れパソコンに画像を取り込んでいく。そこにニャーと泣きながらシロが近寄ってきた。 取り込み終わったそれを見て、おれは言葉を失った。そして、次の瞬間、家を飛び出していた。 後ろで、シロが鳴く声が聞こえた。 おれはなにをしていたのだろう。 なぜ、早く彼女に会いに行かなかったのだろう。 何と言ったらいいかわからなかった?何と謝ったらいいかわからなかった? 本当はそんなことはどうでもよくて、もっと大切なことがあったんだ。 車を走らせそう遠くない彼女の実家に着いた。車を降り、インターホンを鳴らす。中から出てきたのは彼女の母親で、彼女は散歩に行ったと教えてくれた。 おれは彼女を探した。彼女の行きそうな場所はいくつか候補があった。実家に一緒に来た時にお気に入りの場所だと教えてくれた。 どうしようもなく彼女に会いたくて、彼女を探す足は早まるばかりだった。 彼女のみていた世界には、おれがいた。そこには、笑ったおれとご飯を食べるおれ、それからシロと遊ぶおれに寝ているおれ。そこには、おれしか写っていなかった。 "愛しいと思ったものしか撮らないよ"と言ったそれに写っていたのはおれだった。 そこには自然なおれがいて、自分でも知らない表情をしたおれがいた。 なぜ、こんなにも思ってくれていたのに気づかなかったのだろう。なぜ、早く会いにこなかったのだろう。 ただ、今すぐ会って、抱きしめたいと思った。 視線の先、彼女を見つけた。名前を叫ぶと彼女はゆっくりと振り返り、驚いた表情を見せた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加