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「あの、これ現像したいんですけど。」
丁寧に対応してくれた店員さんは、携帯にデータをいれるかCDディスクでのお渡しになると言った。
いつのまにか携帯に送ってもらえるようになったか。
彼女は写真をパソコンにまとめていたのでCDディスクでもらうことにした。きっと携帯にもらったほうが楽だけど。
帰り道、彼女のみる世界が早く知りたくて、いつのまにか急ぎ足になっていた。
家に帰ってパソコンをあける。パスワードは彼女の誕生日だなんて、なんとも単純だなと思う。
CDディスクを入れパソコンに画像を取り込んでいく。そこにニャーと泣きながらシロが近寄ってきた。
取り込み終わったそれを見て、おれは言葉を失った。そして、次の瞬間、家を飛び出していた。
後ろで、シロが鳴く声が聞こえた。
おれはなにをしていたのだろう。
なぜ、早く彼女に会いに行かなかったのだろう。
何と言ったらいいかわからなかった?何と謝ったらいいかわからなかった?
本当はそんなことはどうでもよくて、もっと大切なことがあったんだ。
車を走らせそう遠くない彼女の実家に着いた。車を降り、インターホンを鳴らす。中から出てきたのは彼女の母親で、彼女は散歩に行ったと教えてくれた。
おれは彼女を探した。彼女の行きそうな場所はいくつか候補があった。実家に一緒に来た時にお気に入りの場所だと教えてくれた。
どうしようもなく彼女に会いたくて、彼女を探す足は早まるばかりだった。
彼女のみていた世界には、おれがいた。そこには、笑ったおれとご飯を食べるおれ、それからシロと遊ぶおれに寝ているおれ。そこには、おれしか写っていなかった。
"愛しいと思ったものしか撮らないよ"と言ったそれに写っていたのはおれだった。
そこには自然なおれがいて、自分でも知らない表情をしたおれがいた。
なぜ、こんなにも思ってくれていたのに気づかなかったのだろう。なぜ、早く会いにこなかったのだろう。
ただ、今すぐ会って、抱きしめたいと思った。
視線の先、彼女を見つけた。名前を叫ぶと彼女はゆっくりと振り返り、驚いた表情を見せた。
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