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第一災 禍福は糾える縄のごとし
「開け、ゴマ?」
“ブー”
「ちちんぷいぷい」
“ブー”
「テクテクマヤコン、テクテクマヤコン!」
“ブー”
“あと3回間違えた場合、セキュリティロックが掛かり本日中には開きません”
「何じゃそりゃ!」
旧館三階廊下に、私の声が木霊した。
近くで立ち話をしていた生徒たちが、パタリと口をつぐむ。万策尽きて虚空を見つめる私の周りを、他の生徒たちが少し距離をとりながら通り過ぎていった。
この状況を見て私が何をしているのかわかる人は、まずいないだろう。
だって私にもわからない!
「……はぁ」
一体なんでこんなことになったんだっけ。ええっと――。
***
――そう、今日はめでたいめでたい入学式だったのだ。
県立千代ヶ丘女子高校、通称千代女。
公立なのにデザイン性が高いことで有名な千代女の制服に身を包み、しばらく姿見の前でホクホクとした気分を味わってから、私は家を出た。
爽やかな青空、盛りを過ぎた桜がはらはらと舞う。鼻歌交じりにのんびり自転車を走らせていると、15分ほどで正門前の坂が見えてきた。
「ふぅ」
登り坂を軽快に立ち漕ぎでひと超えし、駐輪を済ませて一息つく。
昇降口へと歩き出した、そのとき。
――タッタッタッ……。
どこからともなくリズミカルな靴音が聞こえてきた。
私は辺りを見回す。
まだ姿は見えないが、この音には聞き覚えがあった。
――タッタッタッタッタッタッ。
坂の下の方からだ。
少し戻って、正門のところから坂を見下ろすと、やはり彼女の姿があった。
「……り~ん!」
彼女――森近旭ちゃんは、ランニングと言うには早すぎるスピードで坂を駆け上りながら、大声で私の名を呼んだ。満面の笑みでこちらに手を振っている。
「お~い、り~ん!」
旭ちゃんとは中学からの友達である。陸上部のエースだった彼女は、中学時代、毎朝ランニングしながら登校していたのだが……。まさか高校でも、しかも入学式当日から走ってくるとは思わなかった。
私は尊敬半分、呆れ半分に手を振り返す。
「旭ちゃ~ん。おはよ――ウッ!」
全部言い終わる前に、旭ちゃんが猛スピードで突っ込んできて、私に抱きついた。
なんてすごい腕力!
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