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スクランブル交差点。今のところは大きな事故はない。私はこまめにニュースを確認しながら、お弁当を片手に、人ごみの中をゆっくりと歩く。夢で見た景色とは違う、なんて清々しい風景だろう。ここは美しい場所よね、私も千枝ちゃんも素晴らしい運命を生きているわよね。ここですれ違う人々と同じ輝かしい未来を迎えるはずね。
「ママ」
人ごみの中から私を呼ぶ声が美しく響く。学校に向かったはずの娘は人の間を縫って私の元へ駆けてくる。
「ママ、お弁当待ちきれなくて来ちゃった」
彼女はそう言ってクスッと微笑んだ。
「千枝ちゃん、え?どういうことなの?とにかく、ここ道路の真ん中よ。危ないから渡ってから話しましょう。」
「大丈夫。」
「大丈夫じゃないわ、行きましょう。」
「大丈夫だよ。」
「駄目よ危ない…」
私の言葉を遮って千枝ちゃんは叫んだ。
「さっきまでママが見ていた風景は、全部夢なの!」
私は怒る。娘まで、何を言い出すのか。
「嘘よ千枝、現実でしょう!」
娘は私を静かにじっと見つめる。私と千枝の遠い日に連動した鼓動が蘇る。
「さっきまでは全部夢、さっきまでは全部夢…」
悲しい悔しい涙を流すつもりだった。
しかし私はふと、千枝の瞳の奥で彼女の意図に気がついた。
「千枝、さっきまでのは全て夢だったのね。ごめんね大声出して、認めるわ。でも、千枝ちゃん答えて。今私の目の前にいるあなたは夢じゃないわね。この瞬間は夢じゃないわね。さっきまではということは、今は夢じゃないのね。」
娘は頷いたと思う。そして
「ママ、私、生と死の繋がりは太陽だと思うのよ。」
そう笑いながら静かに空気に消えていった。
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