カミサマの母親

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 ***  それは――最悪のタイミングで、露呈することとなった。蒲公英と出会って半年ほど過ぎた時の事である。  僕が姉の下着をこっそり借りて選択していることや、生理用品を毎月のように借りたことなどが姉にバレたのである。僕が月末になると具合を悪くして母に叱られるので、それもおかしいと思ったらしい。  蒲公英はとても甘えん坊さんで、小学生くらいの見た目になった今でもミルクを欲しがった。しかも、普通のご飯をちゃんと食べられるし牛乳も飲めるのに、僕の胸を吸いたがるのである。不思議なことに女の子の体になってから、僕はお乳が出るようになってしまっていた。僕は蒲公英のママだけど、蒲公英を産んだわけではないというのに。  そう、まさかの――蒲公英にお乳をあげているタイミングで、姉が部屋に勝手に入ってきたのである。  大きな胸を晒して、ウサギくらいの大きさの女の子におっぱいをあげている僕を見て、姉は何を思ったのだろう。いっそそのまま気絶して、白昼夢でも見たと勘違いしてくれたら良かったのに。姉はそのまま意味不明な金切り声を上げると、僕を罵倒して(よくわからなかったが、多分気持ち悪いとか意味わからないとか言ったんだろう)両親に知らせてしまったのだ。  すぐにその夜、緊急の家族会議が始まってしまった。  僕が勝手に蒲公英を拾って部屋で育てていたこと、体が女の子になったこと、それらを全部秘密にしていたことを知って二人はカンカンだった。僕はお父さんにもお母さんにも殴られて、ほっぺが真っ赤に腫れ上がってしまった。そして。 「あんたは男の子なの!しかも小学生の!そんな男の子が、得たいの知れない化け物に母親みたいな真似をして……恥ずかしいとか気持ち悪いとかおかしいとか思わないの!?思わないなら、その化け物におかしくされてるに違いないわ!!」  母は。僕の事になんか興味などないくせに、僕が気にくわないことをすると烈火のごとく怒る人だった。今回も多分、理解できない事態の気持ち悪さに加えて――僕が秘密を作ったことが腹立たしくてならなかったのだろう。 「捨ててらっしゃい。そんなものがいなくなれば、お前もきっと元の普通の男の子に戻れるはずだ。息子が変な妖精のせいで女の子になってしまいました、なんて一体誰が信じる?世間に頭がおかしい家族だと思われるのはごめんだ」  父も、こんな時だけまともな“お父さん”のフリをする。気にしているのは自分の出世と世間体だけだ。 「あのさ、葵。さっきは思わず叫んで悪かったよ。でも葵もほら、冷静になろ?おかしなことが起きて混乱するのはわかるし、一度育てたものに愛着がわくのもわかるけど……どう考えたってこれは異常だもん。意地張るとこ間違えてるよ。本気で、何かに打ち込んだりしたことのない葵にはわからないかもしれないけどさ……」  そして姉は――多分姉が、一番マシなことを言ってくれたとは思っている。パニックになりやすく、感情の浮き沈みが激しい姉だが。余裕がある時は僕に話しかけてくれることもあったし、心配してくれることだってなかったわけじゃない。さっき両親が立て続けに僕を殴った時も、唯一止めようとはしてくれていたほどなのだから。  でも、僕は。
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