カミサマの母親

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カミサマの母親

 カミサマを見つけた。その時、僕は本能的にそう思ったのだ。  子猫か子犬が入ってるのかと思った、電柱の下のダンボールには――翼の生えた不思議な生き物が倒れていたのだから。  それは抜けるように白い肌をした、赤ん坊だった。けれど人間の赤ん坊ではない。サイズがまず、小学生の僕の掌くらいしかないのだ。抱き上げようとすれば、潰してしまいそうなほど小さい。白いワンピースのような服を着て、背中にちんまりとした翼が二つ生えている。本来ならば“天使の子供”と言った方が正しいのだろう。けれど僕は直感的に、これは神様の子供に違いないと思ったのである。  幸い、両親は共働きで夜まで帰ってこない。中学生の姉も部活が忙しいので、日が落ちるまでは帰ってこない。僕はダンボールごと“カミサマ”を抱えると、家の中に急いで入った。――ダンボールは雨ざらしになっていたのか、だいぶ薄汚れている。早めに解体して、それとなく紙ごみに混ぜて捨ててしまった方がいいだろう。ゴミ捨ては僕の仕事だし、両親は僕の行動に無関心だ。多少やらかしてもバレないという自信が僕にはあった。  あちこち汚れていた赤ちゃんの体は綺麗にお湯で洗って、とりあえずはハンカチを巻き付けてあげることにする。するべきことはわかっていた。汚れた洋服に変わって、新しい服を作ってあげなければならない。確か、家庭科の授業で使った布が余っていたはずである。 『男の子なのに、お裁縫が好きなんて。……もっと野球とかサッカーとか、男の子らしいことに興味を持ったらどうなの?』  母は大人しくて本ばかり読み、外であまり遊ぶこともしない僕を事あるごとにそう言って軽蔑したが。今はなんだか、そんな母に自慢してやりたい気持ちになっていた。  あんたが見下した僕の趣味は、カミサマを助けるのに役立ったんだぞ――と。 「どうしてあそこにいたのかわからないけど。……カミサマを捨てるなんて、罰当たりなことする人がいるもんだな」  暫くして、カミサマの赤ちゃんは目を覚ました。赤ちゃん用のミルクなどなかったので牛乳を温めてやってみたら、意外にも赤ちゃんは嬉しそうにごくごくと飲んでくれた。まだ喋れない赤ちゃんは、あうー、とかうにゃー、とかしか言わない。だから、名前もどうしてあそこにいたのかもわからない。  けれど僕は、この子は来るべくして此処に来たのだと当たり前のように信じていた。だから、僕の裁量で名前をつけることにしたのだ。 「お前は、蒲公英(タンポポ)だ。僕の一番好きな花の名前をあげる。雑草だなんて言われて人に踏まれても、しっかり根を張ってとびきり可愛い花を咲かせる、強くて綺麗な植物なんだ。お前もそういう大人になってくれよ」
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