忘れられない水族館

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忘れられない水族館

 人もまばらな、真冬の水族館。  私は非常階段を上り、屋外の踊り場に出た。海からの寒風が容赦なく吹きつけている。  そんな中で、私は目を閉じた。今でもはっきりと思い出せる。二年前の夏、あなたと一緒にここに来たことを。  立ち入り禁止のロープをくぐって、あなたはここにやってきてしまった。私は戸惑いながらも、ここからの眺めに目を奪われた。すぐ目の前に、海がある。海にみとれていた私に、突然あなたは抱きついて、そしてキスをした。  理由なんてわからなかった。今でもわからない。あの後、あなたに恋人がいることを知った。ますますわからなくなった。あの日、どうしてあなたは私の唇を奪ったの。  もうあなたとは、一年以上会っていない。だって、あなたは恋人と結婚してしまったから。  私は今でもあの夏を鮮明に思い出せるのに。あなたは今でも、あの夏のことを覚えている? 答えを聞くのが怖くて、私は手紙を書くことも出来ない。  真冬の水族館で、私はいつまでもあなたとの幻のような夏を見ている。
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