一、噂

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「おい旦那、男の夜鷹のこと知ってるか?」 「……いや」  ふいに話を投げられ、しまきはそちらを見やるが、やはり短く答えるだけだった。男たちはそれを特に気にするでもなく、好き勝手に話しを続ける。 「なんだお前、興味あんのか」 「そういやこいつ、色子に入れ込んでたことがあるからな」 「うるせえ! なくもねえが、やっぱり女の柔らかさが一番だろ」  下世話な種を花と咲かせて、男たちはあっという間に蕎麦をたいらげた。そうして代金をしまきへ渡すと、またわいわいと話ながらどこか知らないところへ帰っていく。  しまきはただ淡々と、次の客にどんぶりを盛り始めた。  ◆ ◆ ◆ 「あっ、ああっ……」 「男だって知ったときゃどうかと思ったが、いい臀じゃねえか」  草むらといぐさが、男が腰を振る度に、かすかに擦れ合って乾いた音を立てる。 「はっ、は、陰間に行くより手軽でいい」 「ん、あ……奥ぅ……」  ざらめは男に身を委ねながら、ゆっくりと振り返り、ねだるように言う。その見返る視線はまるで流し目のごとく色っぽく、男は気をよくした。  客の言う通り、ざらめは男である。それも元は陰間茶屋に身を置く男娼であったが、いまはこうして夜鷹として生きていた。 「ああ。ここだなっ?」 「あっ、そこ……ん」  背後から突かれ、ざらめの体が揺れる。その度に彼は腰をくねらせる。別段それは、具合がよいとか、そういうことではない。  この仕事ではどれだけ客を悦ばせられるかが重要であり、それ次第では代金が弾むことがあれば、贔屓として寵愛されることもあるのだ。つまりこれらは、全てざらめの演技である。 「いい、締め具合だな……もっと鳴き声を聞かせろ」 「……はぁ、あ、あ……っ」  ぐいぐいと陽根を押し込まれ、一層よいふりをする。  ざらめはまるで金平糖の溶けるような、甘やかな声を響かせた。
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