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二、平明
夜鷹は一日に何人もの相手をする。だからこそ、仕事をするにあたり手軽に満腹感を得られる、しかも安価な蕎麦を食べるのだ。そうして体力仕事に励んだ。
「お兄さん、一杯ちょうだいな」
「あいよ」
来客が少ないとはいえ、しまきの屋台にも夜鷹は訪れる。この女もまた、古着の派手な小袖をまとい、手拭いを吹き流しに被った夜鷹だろう。
茹で上がった蕎麦をどんぶりに放り込み、つゆを注ぐ。撫でかけるように注がれたつゆから、ふわりとだしの香りと湯気が漂う。
「……ねえ、その髪、粋だねえ」
流された総髪を見た女は、紅を引かない唇で、しまきに向かって色を吐く。けれど、彼はなにも言わずにどんぶりを差し出した。
「ふん。いい男なのに。つまんないの」
◆ ◆ ◆
そろそろ空も白む頃だろうか。宵に浮かぶ星のきらめきも、徐々に弱弱しくなり始めている。それでも夜鷹たちはいまだ草むらに、川辺りに、或いは路地裏で。客を悦ばせるために、その性を羽ばたかせて飛ぶ。
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