蛇足・鷹は老木に羽を休める

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 体のいかにも頑丈そうな強面の男が、少年の手を引く。逃げようともがいても、あっけなく馬へ引き上げられる。 『振り返るなよ。お前はもう、おれたちの商売道具なんだからな』  その言葉が恐くて、馬の上で縮こまるしかできない。遠ざかっていく両親の声に答えたくても、何もできない。最後に一度だけ、その声に答えたいのに。  ――音々助。  彼らは確かに、少年をそう呼んでいた。 「……本当に、言わなくていいのか。お前さんがそうだってこと」 「言えません。たった一人の息子が、春をひさいで生きてきたなんて……私には到底」  そう、か。しまきは溜息をつきながら、そっとざらめを引き寄せる。囲炉裏の火が柔らかく、鉄瓶の底を撫でている。  ざらめのその気持ちも理解できた。だからこそ、しまきはもうそれ以上は何も言わない。 「この記憶を秘めること。それを私の罪にします。……だから、分かち合ってもいいですか?」 「ああ……もちろんだ。行く先は地獄、そうだろう」  密やかに密やかに、比翼の鷹たちは、羽を休めた。 完
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