温もり -完結-

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   ――神さまなんていない  そう思って12年生きてきた。  暁生(あきお)21歳。今は空しいほどに青い4月の空の下で芝生の上に寝転んでいる。  暁生の毎日は刺激的で空虚。  咲絵さんという28歳の女性のマンションに転がり込んでもう2ヶ月。咲絵さんは有名な人の愛人だそうだ。そのパトロンが来るとこうやって追い出される。  咲絵さんにとってはビジネスだ。厄介になっている身としては文句など言えない。天気が良かろうと悪かろうと「分かった」と言って外に出る。時にはジーパンを引っ掴んで、Tシャツを頭から被りながら。靴を持って飛び出すなんて日もある。雨の中ガタガタ震えながらベランダに2時間いたり。  3月終わりの夜はまだ寒かった。  お世話になっているから、咲絵さんの欲求のお世話もする。ベッドの上でタバコの煙を吐き出しながら咲絵さんが言う。 「爺ぃ相手に感じないのよねー。あんたとは愛も無いし、お互いに楽しめればいいわ」  あっさりものを言う咲絵さんが男前に見えたからぐずぐずとここで過ごしている。  暁生の過去はすっきりしている。  父は首を吊った。母は暁生の首を絞めて、その後包丁で自分を刺して死んだ。残念ながら暁生は死なず、救命士のお蔭か、せいか息を吹き返した。そして施設で大きくなり、高校は出してもらってその後は『ぷー』だ。  特にいじめられたことも無ければ何かあったわけじゃない。頭は良かったがだからといって何かが変わったわけでもない。今は咲絵さんのヒモだ。  
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