温もり -完結-

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   小さい頃のことで思い出すのは両親じゃない。  一応弁明しておくと悪い親じゃなかった。可愛がられたし平凡だけどそれ以下にはならなかった。あの時、何があったのかは知らないが。  思い出すのは猫だ。生まれたての仔猫を拾って母に『飼いたい』と泣いて頼んだ。そして父が許してくれて飼うことになった。  名前は『みゃあ』。小さくて温かい命は、「みゃあ」と鳴いてその存在を暁生に知らせた。それから『みゃあ』だ。  家の中で『みゃあ』は暁生と常に一緒だった。ミルクも暁生に催促する。勉強していても足元にじゃれついた。夜は布団の中に潜り込んで来て、暁生の腕の中で眠る。 『みゃあ』はあの日まで生きていた。なぜか母は自分を刺す前に『みゃあ』を刺し殺した。だから病院で目が覚めてからは『みゃあ』の姿を見ていない。その死骸を見ることさえ無いままお別れした。  思い出すと恋しくなるのは『みゃあ』の存在だ。あの温もりは咲絵さんも持っていない。『みゃあ』だけのものだ。命を預けてくる、そんな温もりだった。 「『みゃあ』、天国で幸せか? でも神さまはいないからな。天国も無いんだろうな」  今日は青空の中にあの鳴き声が寂しく響く。 「みゃあ」  
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