温もり -完結-

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   暁生は咲絵さんにチャリを買ってもらった。  チャリで走っていると(もう少し咲絵さんのところにいようかな)なんて思ってしまう。ちょっと居心地がいい。  でも自分の居場所を作るのは好きじゃない。そういう場所は要らない。施設でも誰かとだけ仲良くなるのが嫌だった。『みゃあ』と別れたように、急にお別れが来るかもしれない。だからいつでもお別れしていいように暮らしてきた。  咲絵さんに拾われたのは飲み屋の横にあるゴミ箱のそばだった。ちょっと運が無くて腹も減っていた。飲み屋のお兄さんが捨てたばかりの料理を漁っていた時に声をかけられた。 「お腹減ってんの?」  ファミレスに入って、席に座る前に外に連れ出された。 「あんた、臭い」 腹が減っているのにそれは後回しにされてマンションに連れて行かれた。バスルームに放り込まれてきれいになって出ると着替えは全部捨てられていた。  素っ裸で咲絵さんの前に立つ羽目になる。 「あんた、きれいだわ」 髪を切る金も無く、伸ばしっ放し。磨いてみれば21歳の若者は魅力的だった。  咲絵さんは自分の透け透けのネグリジェを放ってくれた。裸の上にそれを羽織ってキッチンテーブルの椅子でお湯が沸くのを待った。カップラーメンが目の前にある。今度は3分待つことになる。 「待たなくても食える」 「待ちなさい」 それから咲絵さんが言う通りに暮らすようになった。  
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