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学校というのはとても狭い空間だ。
どれだけ好きだと思い込んでいても、卒業して社会という大海原に出ていくと一気に景色がかわる。
今までなんであんなに固執していたんだろう? と我に返ることは多々ある。
柚木にだって覚えがある。
だからきっと安久津もそうなんだろう。きっと卒業して数週間も経てば忘れられる。
そう、おぼろに思いながら卒業生の歌声を聞いていた。
涙をすすりながら、高く低く歌う卒業生たちの歌声がホールに響いている。
春を祝い、これから先の人生を寿ぐように。
___ああ、と、その時柚木は気づいてしまった。
「好きだ」と安久津に告げられ断りながら、心の中ではずっと柚木こそ好きだと思っていたこと。
ダメだと言いながらホントは嬉しくて、帰宅してから思わず鼻歌が出てしまっていたこと。
好きを認めたくなくて、苦しかった日々。
___終わるのか。
式典はこの歌が終わり、閉会する。
毎日を顔を合わせ言葉を交わせる時間が終わってしまう。そう思った瞬間頬を伝うものがあった。それは熱く、とめどなく流れる。
こんなにも、安久津のことが好きになっていたのか。
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