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今、ベッドの中で、真っ裸で抱き合ったまま朝を迎えた安久津は大きくあくびをし、ふふ、と満足そうに笑っている。
「夢みたい」
「なにが?」
「こうやって先生といること」
大きな手のひらが布団の中に潜り込み、無防備な柚木の肌を撫でていく。
「先生のこと、おれのものにしちゃった」
卒業して付き合うことになっても互いに忙しくなかなか会うことはままならなかった。休みだといっても部活だ学期末の準備だと学校に駆り出され、ようやく昨日、落ち着いて会うことができたのだ。
私服で会う安久津は柚木の知っている彼とは違って、ずいぶん大人びて見えた。
食事をしそのまま柚木の家に泊まり、初めて恋人としての関係を持った。手慣れない安久津を受け入れた時、うれしくて、幸せで、何度も求め合ってしまった。
「好きだよ、先生」
キスを受け止めて、腕の中に包まれるとため息が漏れる。
幸せすぎてどうしていいのかわからない。
夢じゃないよな、と柚木こそ思ってしまう。
小さく聞こえているラジオから「春分の日の今日は」とDJのトークの後に懐かしい曲が流れ始めた。
「春分の日って何の日か知ってる?」
いちゃいちゃと触れ合いながらふいに問いかけると安久津はほんの少し考えて「知ってる、春になる日だろ」と答えた。
「春になる日?」
「そう。冬が終わって春ですよーって日だろ」
自信たっぷりに答える安久津の鼻をぎゅっとつまみ「それは立春だろ?」とあきれたように答えた。
「春分の日は、昼と夜の長さが一緒の日。これから先、昼のほうが長くなるの。お前大丈夫? よく卒業できたなあ」
「あーそっかそっか。それだ」
はははっと軽く笑って安久津はこつんとおでこを当てた。
「じゃあこれからたくさんデートしようね、先生」
まずは花見。それから水族館に行ったり、海に行ったりしよう。
見ることのできないと思っていた同じ未来を、安久津と一緒に歩いていく。季節を重ねていける。
「今までできなかったこと、たくさんしよう、先生」
「……うん」
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