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本当はまだ怖い。
10歳も若い安久津はこれから新しい世界を知っていく。今知っている、柚木といる世界より、もっともっと楽しくて刺激的で魅力的な世界があることをこれから経験していくだろう。
だけど、願わくば。
「それより、先生ってやめて。なんか悪いことしてるみたいだから」
「えー。先生は先生なんだけどなあ」
「恭平だよ」
柚木恭平。
先生じゃなくて、ただのひとりの男として安久津に恋をしている。
「恭平」
大事なものの名前のように、愛おし気に安久津は柚木の名前を呼んだ。
「好きだよ。恭平」
「おれも、好きだよ……由人」
安久津はまぶしそうにパチパチと瞬きをすると大きく破顔し、抱きしめる腕に力を込めた。
「あーたまらん。大好き。デートする前に、まずは、もっといちゃいちゃしよう」
「え、あ、ちょっ……」
「恭平のこと、もっと教えて?」
柚木の体を覚えたばかりのいたずらな指が、さらに知りたいと探ってくる。大きな波にさらわれるかのように柚木は体を震わせ、それを欲しがった。
春。
始まりの季節。
ここから、並んで歩いていく。
fin
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