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「また今年もか……」
女将は肩を落とすと、トボトボと自室に戻る。
何やらショックな出来事があったのだろうか?
「さて、困ったな」
その知らせを聞いた料理長まで、思案顔。
「もう!二人揃ってうんうん唸ってさ。イカナゴぐらいで大袈裟なんだよ!」
今年もイカナゴが不漁だ。
イカナゴの試験漁が行われる二月の中旬辺りから、女将はそわそわ、料理長もつられてそわそわ。
不漁の知らせを受けたが、最後まで諦めない女将。
毎年2月下旬〜3月上旬になるとイカナゴ漁がおこなわれ、透きとおる稚魚は『イカナゴのくぎ煮』にし、関西人の舌を満足させる。
女将曰く、白いご飯最高のお供
であるらしい。
家庭の味でもあり、それぞれ味わいに違いがあり、自分の作ったイカナゴをお裾分けして、頂いて、が定番だ。
関西に春を運ぶ風物詩イカナゴ。
それがここ4〜5年不漁が続き、キロの値段が高騰している。
もはや庶民の味ではない。高級魚になっているのだ。
「女将さんが作るイカナゴのくぎ煮を、毎年バクバク食べているのは清香じゃないか」
「だって早く食べないと、狸の吾郎太に食べられるもん!アイツ、ほんとにいやしんぼなんだから!」
*いやしんぼ…… 口が卑しい人
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