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「料理長、女将さんがなんか不気味……」
鼻歌混じりに宿を掃除し、野花を摘んではあちこち飾る。
着物の虫干しから、草履の鼻緒の取り替えまで、1日中忙しく動いている。
「いつもはさ、コロナ去れ!とか言って薙刀振り回してるのに、急に乙女みたいな事しちゃってさ〜」
「コラッ!せっかく女将さんが楽しく過ごしているんだ。くれぐれも水をささないようにな?」
料理長に釘をさされてもそこは天下の清香である。
忠告など、どこ吹く風で女将に絡む。
「女将さ〜ん、まだ風邪が治ってないとか?熱でもでてるのかな」
「なんや清ちゃん。わたくしは絶好調やけど?」
「えぇ〜?だって女将さんおかしいもん。そんなにニコニコしちゃってるし。花なんか飾って乙女モード体験しちゃってるし。年甲斐もなく!」
穏やかなニコニコ顔が一変、女将の目が細められギラリと放たれる妖気。
令和初のお仕置きが発動された。
清香、もう学習しよう!
いいかげん学習して欲しい!
「女将さん、清香も反省してるみたいですし……そろそろ許してやっては?」
空蝉の宿自慢の庭で、庭師の狸平次と一緒に雑草取りの清香。
庭は広い……。
春なので雑草も、盛りだくさんだ。
「まぁ、料理長が美味しいおやつをやな、わたくしに食べさせてくれるなら許したるけど?」
「わかりました。今日は苺大福を作りました」
「白餡か?」
「ダブルで」
女将は走る、台所へ。その姿はすでに妖狐になってしまっている。
「はぁ……興奮すると女将さんはすぐに狐になってしまう。どうしたものかな……」
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