1年生編6月

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◆生徒会との協力関係 「はーい、お邪魔します。バ会長いる?」  生徒会室には行き慣れているらしく、礼奈は戸惑うことなく室内へ入っていく。 「会長は本日もバスケ部の方に参加されてますわ」  涼子の声が聞こえてきたので、海と侑希も顔を覗かせる。 「あら、珍しいですわね。何か御用でも?」 「吉川さんの知り合い? それならちょーどよかった! 私もさ、委員会の仕事残ってるから対応よろしく! じゃっ」 「こちらも忙しいというのに……。お二人共、そんなところにいないで中へどうぞ入ってくださいまし」 「「お邪魔しまーす」」  生徒会室というだけで入りづらくなるのはなぜだろうか。もしかして涼子が魔除けの結界でも張っているのではと疑う。 「あのね、涼子ちゃん。わたしたちのクラスで喫茶店をやるんだけどね」 「カイに合うメイド服を作れってことですわね」 「ちげーよ」 「それは別途相談という形で……」 「いやいやいや。侑希さん?」 「調理室を借りたいからその申請をしたくて、牧瀬先輩に連れてきてもらったの」 「あぁ、調理室。大丈夫ですわ。こちらの書類に必要事項記入してくださる? 細かいメニューとかは分からなければ空欄で問題ありませんわ」 「ありがとう」  侑希が記入中、海はやることがない。生徒会室を見回してみることにした。  広さは普通教室の半分とあまり広くはない。壁は全て鍵付きキャビネットで埋まっており、中には資料らしきものがある。  長机が二つに折り畳み椅子が六つ。生徒たちの長であるはずだが、特別扱いはないらしい。強いて言うならケトルがある。 「外人なんですか?」  隅っこから女子生徒が出てくる。学年色は緑、一つ上だ。 「や、ハーフで……」 「ハーフ! でも綺麗。うちにミスコンがあれば間違いなく優勝だね」 「副会長、カイのことからかってる暇があるなら去年の文化祭資料を集めてほしいのですわ」 「あー、そうだった。どこにしまったっけね」  人口密度高めの部屋のドアが開く。数学教諭の大坪だ。 「文化祭資料なら窓側の赤いシールが貼ってある引き出しだ」 「おおちゃんさっすがー!」 「こら、僕は君たちの先生で顧問だぞ。ちゃんと先生をつけなさい」 「おおちゃん先生♪」 「お前な、副会長になった自覚持てよな」  賑やかな空間だ。カリカリ言っていたボールペンの音は止まったが、窓際の攻防は続いている。 「書けたよ」 「では受け取りまして……」  長めのスカートを引っ掛けることもせずに立ち上がり、 「おおちゃん、一年七組からの申請書ですわ。大至急でハンコをもらってきてくださいな」 「申請書? ああ、調理室ね」  黒い目を細めて、記入項目の確認を行う。 「よし、じゃあ持っていくから……他にはないよな?」 「ないですわ」 「やー吉川が入ってくれて助かるわー。二年生ポンコツばかりだからな」 「ひどい! パワハラだ!」 「お前は去年も生徒会だったんだから、資料の場所くらい覚えてろ! 小平とは未だに会ってねぇしよ……。あとお前ら数学の勉強もちゃんと」 「はいはい。とりあえずハンコお願いしまーす!」  涼子が小言が長い男の背中を無理矢理押し、再び静寂が訪れる。 「涼子ちゃんって先生と仲良しなんだね」 「おおちゃん? 私の担任ですので」  クラス担任、生徒会顧問だなんて都合の良いことをするものだと内心溜息をつきたくなったが、我慢することにした。 「ついでにあなたたちにはこちらもお渡ししておきます」  昨年の文化祭のしおりだ。 「侑希は去年来ているようですから必要ないかもしれませんが、クラスで参考になればと思いまして。理想は近年の出し物と被らないものがいいですわ」 「そうゆうものなんだ」  受け取ったB6サイズのしおりを適当にめくる。絵が上手いところは目を引くものの、そうでなければ見向きもしない。 「せっかく考えたものを後輩に真似をされたら、先輩方もいい気はしないでしょう。下手に小言言われたくないならオリジナルでお願いしますわ」 「そういえば去年ってメイド喫茶あったよねー」  侑希がページを数枚めくる。 「これ。わたし行ってないんだけどね」  きっとイラストの得意なメンバーがいなかったんだ。可哀想に。そんな画力である。 「そのしおりをまとめあげるのも委員会の仕事ですから、頑張ってくださいね」 「こんなのもやるのか……」  やること、やらなければならないことが多過ぎて目が回りそうだ。ほとんどが他人の進行度に左右されるという点も、海には耐え難い。 「うみちゃん、忙しかったら言ってね」  今この部屋にいるメンバーの中で、一番の暇人は海だ。侑希にとっては嫌味ではなくても、涼子にはウケたようで、 「侑希は本当にいい子なんですわね」 と笑っていた。 ――侑希ちゃんこそ、百年しかない人生なんだから私なんかに気を使わないで、やりたいことをやってくれ。  海は大体のことを見てきた。やりたいことは体験してきた。これからも侑希の何十倍と時間がある。学校生活にしたって、満足いかなければ涼子のように何度も繰り返せばいい。 「ほら、二人共、用が済んだのでしたら戻った方がいいですわよ。調理室の件は、認可され次第こちらからご連絡します」 「りょーかい。涼子ちゃん、いろいろありがとう。またね」  海も軽く手だけ振り、生徒会室を後にした。
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