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◆文化祭実行委員会って忙しいらしいよ
文化祭実行委員会と言うものがどんな活動をするのか分からなかったため、前回もこの学校で過ごしていた涼子に確認を取ったところ、文化祭を盛り上げるために、春から秋の文化祭までにかけて活発に活動をする委員会らしい。
「まさかカイが文化祭実行委員だなんて」
彼女が笑いを堪えられずに、地の性格が出る瞬間を今月に入ってから何度も見ている。
「東高は行事が盛んと言ったと思いますけど、文化祭が一番盛り上がるんですの。加えて進学校ですから三年生はあまり委員会に参加はできないので、一、二年生だけで学校一番のイベントを支えるんですのよ」
「え、それって忙しいじゃん」
「そうですわね。クラスの出し物自体で忙しいですから、あまりやりたがる人もいませんでしたわ」
「だよね。うちのクラスも二人しか手を挙げなかったわ」
「いいじゃありませんの。文化祭は準備が一番楽しいですわ。私も一緒に頑張りますわよ」
「シル……涼子は文化祭実行委員じゃないだろ」
「違いますけど……まぁどうゆうことかはもう少ししたら分かりますわ」
「何、その思わせぶりな態度」
「うみちゃん」
「うわっ!」
ひょっこりと侑希がいきなり教室から顔を出してくる。
「涼子ちゃんとうみちゃんって知り合いだったんだ?」
――え、むしろ二人はどう知り合った?
ちらっと涼子の方を見ると、いたずらをした子供のように舌をちらっと出した。
「委員会集合だから、そろそろ行かないと」
「二人とも頑張ってね~」
涼子のやることは抜け目ないなと改めて感心しつつ、もう少し海に学校生活について知識を事前に与えてくれればいいのにとぼやきながら、侑希に手を引かれ視聴覚室に集合をする。
「女子ばっかり」
侑希の言う通り、学ラン姿はほとんどない。
「楽しかったら来年も一緒にやろうね」
「来年同じクラスになれるか分からないよ?」
「それでも同じ委員会に入れたら一緒に行動できるよ」
海の存在に気づいたのか、二年生らしき人々がガヤガヤし始める。「外国人?」「あれが噂の子?」
「うみちゃんって噂になってたんだね〜」
「カタコトで喋った方がいいかな」
「あはは。漫画みたいなキャラだね」
人間からしたら魔女という存在自体が漫画のキャラになるだろう。
「髪と目の色が黒でもうみちゃんは綺麗だからどっちみち目立つと思うよ」
「侑希ちゃんも可愛い」
「ほんと? うみちゃんに褒められたら嬉しいね」
周囲の人間が二人の会話を聞いて「どっちも可愛いから」と思っていることを当人たちは知らない。
人が集まり、平均身長くらいの女子生徒がホワイトボードの前に立つ。
「みんな、注目! これより文化祭実行委員会の第一回目ミーティングを始めます」
凛と響く声。ショートカットのおかげで綺麗な首筋がよく見える。
「えーっと、一年生には悪いんだけど二年生で先に話し合って委員長を務めさせていただくことになりました牧瀬礼奈です。文化祭まで約半年間よろしくお願いします」
緑色の上履きの人間から歓声が上がる。
「二年生うるさい! 一年生引いちゃってるじゃないの」
とても人望がある人であることは分かった。場を仕切る能力もある。生まれる時代と国を選べれば、いい指導者になれるだろう。
――もしかして魔女だったりして。
初のミーティングの場では、今後の活動内容の流れについて説明があり、自己紹介を行って終了となった。一切教師が口を挟むことがなかったのは、学校行事についてはほとんど生徒任せである所以からくるのだろう。実際に、教室の隅であくびをしていた教師の名前のみ分からない。
「若宮さん!」
しっぽがあれば激しく揺れているような元気さで、先程まで場を仕切っていた礼奈が駆け寄ってくる。
「わぁ、本当にお人形さんみたいで綺麗~! 一年生にすごい可愛い子が入ってきたって聞いて、お話してみたかったの! まさか文化祭実行委員に来てくれるだなんて思ってもみなかったわ」
「あー、えっと、どうも」
この国では金髪の女の子がどれだけ珍しい生物なのだろうか。
「礼奈ー! 生徒会に顔合わせ行くよ!」
「分かっているってば! じゃあね、若宮さんと宮本さん。夏前から忙しくなると思うけど、一緒に頑張りましょう!」
嵐のように過ぎ去っていく人だった。
「そんなに大変なの?」
改めて侑希に確認を取る。
「わたしも初めてだからね? でも中には運動部に入っている人だっているから、わたしたちはマシな方なんじゃないのかなぁ」
文化祭は九月初めの土日に開催され、二日目は外部への開放もある。クラスとしては三年生は六月頃から、一、二年生は七月頃から夏休みを含めて準備に取り掛かる。委員会としての活動は出し物の調整、活動教室の割り振り、三年生の劇の上映時間のスケジュール調整、その他ポスター等の資料作成、見回り等があると説明があった。
「三年生はみんな劇なんだね」
「うん。去年わたしも見に行ったけど、教室内をステージに自分たちで作り上げていてすごかったよ」
三年生は受験をするから忙しいと聞いていたが、そんな凝ったものまで作らなければならないなんて学生は大変だ。
「一年生は何をやるの?」
「お化け屋敷、カフェ、アミューズメントとか?」
「アミューズメントって?」
侑希は少し思い出す素振りをしてから、
「ジェットコースターあったよ」
「ジェットコースター!?」
それは専門技術を学んでいない学生が作れるものなのだろうか。しかも教室で。
「ちょっと怖かったから、わたしは乗らなかったんだけどね」
「安全装置あるの?」
「? ないよー。うみちゃん、一体どんなすごいもの想像してるの? 教室でできるものしか出来ないからそんなに大きなものじゃないんだよ」
「そうなんだ」
「どっちかっていうとトロッコを坂から落とされる感覚かな」
楽しそうに語る侑希は、去年誰と文化祭を訪れたのだろうか。興味のある学校の文化祭に行くだろうから、相手もこの学校の生徒になっているかもしれない。
「わたしたちのクラスは何やることになるかな?」
「侑希ちゃんはやりたいものあるの?」
「そうだねー。可愛い衣装が着れるならなんでもいいかな」
制服とジャージが支給されているので、海には現代の日本の流行が分からない。もちろん、日本の若者に溶け込めるような服も持っていないことに気づき、侑希から服についてもう少し集めることにした。
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