1年生編5月

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◆わりと油断するよね、最初のテスト  一年生からすると初めての中間考査になる。勤勉に取り組む人もいれば、せっかく部活動がないということもあり遊びに行く人たちもいる。  侑希は期待を裏切らず前者だった。  涼子はと言うと、まず前回のチートがある。学校、教師によって出題傾向があるならば二周目以降は有利になる。  ただし、彼女は今回勉強に力を入れる気はない、むしろ元から勉強に関しては興味がないようで、魔法を使うと言っていた。 「別に学年一位とか狙わないですから。あと魔法を使うのは本当にヤバそうな時だけですわ」 「何さ。ヤバそうな時って」 「赤点。東高は三十点ですから緩いんですけど、クラスに数人は出ますから気をつけてください」 「百点満点だろ?」 「……」 「何で黙る」 「以前、現代文のテストで百七十点満点とかあった気がしますわ」 「どうしてそんな変な数字に」 「好きに作ってたらこうなっちゃったと弁明してましたわ」 「子どもたちの将来かかる割に適当だな」 「人間も魔女も変わりませんわね」 「うちの担任も適当だよ」 「あぁ……確かに自己中心的でしたっけ」 「瀬川先生って前からいたの?」 「いましたわ」 「ほーん」 「残念ながら中間テストには役立ちませんわね」 「美術関係ないもんねぇ。現代文とか政治経済とか、最近の日本知らないから覚えるの面倒」  現代文であれば授業を聞いているだけで問題ないだろうが、政治経済は覚えることが多くある程度は読み直しの必要がありそうだ。 「赤点取るとどうなんの?」 「補講だったり再テストだったり。なにもなかったりですわ」  テスト内容は英語と数学のみ共通になるが、他科目は担当教員によって内容が異なる。平均点の差は平均化されても、運の要素はある程度ありそうだ。 「当たる先生によって救済処置変わるとか不平等」 「ちなみに一年間の成績、学年末にもらう成績表で一つでも一を取ると留年ですわよ」 「さすがにそんな成績は取らないわ」 「一応進学校であるのとをお忘れなく。いざという時は調整しますから、おっしゃってくださいね」  中間考査の結果は、授業の中で返却される。海は出席番号の関係により最後に返却される。  手応え自体はあまりなく、返ってきた結果も大方平均点のものばかり。 「侑希ちゃんはどう……どうしたの?」 「思ってたより点数が低かったの」  ショックで拗ねているのか数学Aの授業中、海の方を向いてこなかった。 「確率なんてアテにならないよ。そんな落ち込まないで」  人間界の法則なんて、魔女の手にかかれば書き換えが簡単だ。サイコロの目がずっと六を出すことも可能で、七を作り出すことも容易い。 「最初だからもう少しいけると思ったのにな」 「私もちょっと甘く見てた。授業とか適当なわりに試験難しいね」 「自称進学校だからかなぁ。お母さんに小言言われちゃいそう」 「厳しいの?」 「厳しくはないけど母親ってそうゆうものじゃない?」 ――そうか。みんなはテストの結果を親に見せる文化があるのか。 「今回平均点低かったから、次回はちゃんと勉強しろよ。中間と期末の平均点が赤点の場合、夏休みの宿題倍にするからな」  数学担当教員の大坪賢斗。今年三十路になるとのことだが、日本人らしく見た目は学生くらいに見える。そのせいもあって生徒の大半からは「おおちゃん先生」と呼ばれている。  生徒のブーイングを無視し、大坪は試験問題の解説を始める。 ――この人は真面目な先生なんだろうな。
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