俺のモンブラン

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突然だが、私には今凄く気になっていることがある。 平日の真昼間、仕事の真っ最中だが、すこぶる気になっている。 別にサボっている訳ではない。 その「気になること」は仕事に関係することなのだ。多少集中力が途切れているかもしれないが、それくらいはセーフだろう。 因みに私は喫茶店で働いている。 カウンターの中でコーヒーを入れ、お客様に提供する仕事だ。 毎日毎日ひらすらコーヒーを入れ続け、たまにはココアとか紅茶とかオレンジジュースとかもあるけれど、まぁほぼほぼコーヒーを入れ続ける仕事。 天職だ。 “ 何も言わず ” 只々 “ 無言で ” 心を込めてコーヒーを入れる毎日。 幸せだ。 え、会話?挨拶? あぁそれならバイトの子がやってくれる。会計もだ。 ……いいんだよ、ダンディなオーラ出してヒゲを生やして髪をオールバックにしてれば喋らなくたって。 逆に「寡黙で職人気質なマスター」って感じで人気なんだから。 で、何だっけ? あぁそうそう「気になること」。 私の気になること。 それは…… モンブランだ! そう、モンブランだ! 引っ張った割にショボい? まぁ話は最後まで聞きなさい。あれはただのモンブランではない。 あれは……この私が生まれて初めて自分で作ったモンブランなのだ。 「初めて」というのには人間誰しも特別な想いがあるものだろう? あぁ誤解しないで頂きたい。 「初めて作った」というのは「客に出すものとして」という意味だ。 ちゃんと従業員皆で試食会もしたし私ももちろん食べた。 美味かった。 自信作だ。 なのにメニューに加えて一週間、誰一人として注文しない。 解せぬ。 新作として店内にチラシも沢山貼ったし各テーブルのメニューにもデカデカと書いておいた。 バイトくんにもオススメするように言ってある。 だと言うのに未だ客からその名を聞いていない。 解せぬ。 ということで、今日私は強硬手段に出た。 頼まれるのを待っていては、らちがあかない。 ここは先手を打って頼まれる前に出すことにした。 ……つまりサービスだ! 私の自信作のモンブランを 「タダで」出してやろう、ということになったのだ。 というか、した。 マスターは私だからな。
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