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自分が死んだ、というのに意識がある。いや、誰にも認識されないから自分が今本当に存在しているのかも怪しいけれど、自分の透けた身体や自分が発する声は、俺だけが認識している。まあ、ユーレイってやつだろう、と勝手に解釈して納得する。
気付いたことは、俺の行動できる範囲は空閑がいる場所ということと、空閑や他の人間に干渉はできない、ということ。
元々お喋りな俺と無口な空閑は会話が成立しているか微妙な部分もあったが、さすがノーリアクションっているのもキツい。
今は空閑がキッチンに立っている。
料理下手な空閑が、キッチンに向かっている姿に感動する。匂いからしてカレーだろう。美味しそうな匂いがして、腹が減った気がした。
実際俺はもう死んでいるのだし、腹が減っても、食べなくても死ぬことはない。
「だって死んでるからなー」
暇過ぎる、暇だあー!料理をする空閑の隣に立って、隣に立つ。
もう既に具材を鍋に入れてあとはルーを溶かして完成という段階だ。
「すげー空閑、作れるんだなー、まあ器用だもんな!お前!」
当然ながら聞こえていないだろうに、話しかけたくなってしまう。まあ、誰にも聞かれていないのだから、どれだけ喋ってもいいだろう。
すると、空閑が冷蔵庫からウスターソースを取り出して、ルーと共に鍋にぶち込んだ。
「空閑…お前、覚えてたんだな…」
大学一年の春、ふたりで荷物をこの部屋に運んできて疲れ切ったルームシェア初日。
腹に溜まって、簡単に作れるものということで俺がカレーを作った。
『え!?なに入れようとしてんの!?』
『ん?ウスターソース!これ入れるとコクがでるんだぞ~』
『それ本当かよー』
半信半疑の空閑の口に熱々のカレーを突っ込んだ。熱い、熱いと言いながら食べた空閑は、『ん!うめえ!』ととびきりの笑顔を俺に見せてくれたのだ。
ウスターソースを大さじ一杯をいれ、味見をしちょっと満足そうな顔をする空閑。と、思えば突然大きな涙を目に浮かべ、ボロボロと泣き始めた。
「どした?入れすぎた?」
「…ッ、ま、まきの…」
あぁ、好きだなあ。そんな馬鹿なことを死後も考えているのだ。
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