明日世界が滅ぶなら、プリン食べたい

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俺達の高校は、都内から少し離れた田舎にある。都会に憧れて、二人で都内の大学に志望校を決めたのだった。 「今日はどこ行くの?電車?電車に乗るの?」 空閑からの返事はない。 切符を買うところを間近で眺めていたが、金額からしてどうやら大分遠いところまで行くらしい。俺は空閑の隣にずっといる。周りの人の迷惑にならないようにーーと言っても、迷惑になるわけがないのだがーーずっといる。 電車にゆられ、都内を抜け、見えてきたのは懐かしい景色。 俺達があの懐かしい制服を来て過ごした地だった。 「…空閑?なんで…」 なんで来たのか、なんて聞けっこないのに俺は空閑が知りたかった。何故かはわからないが、居心地の悪い地元に「早く帰ろ…?」なんて口から出してしまった。 俺一人では帰れないのはわかっているので、大人しく空閑の後についていく。 変わらない光景、変わってしまった景色。 途中で花屋に寄った空閑は、「では30分後に」なんて言ってまた歩きだす。花屋のスタッフさんが「お待ちしてます」と丁寧にお辞儀をした。 そこから時間を持て余したのだろう空閑は、新しくできたらしいチェーン店のカフェに入って本を読み始めた。 「オネーサン、俺にもコーヒーひとつ~なんちゃって」 姿も声も見えないのだ。ガン無視を決められるのも、当たり前なのだ。 あるわけがないのに、妄想する。これがただのドッキリで俺が透明人間になってしまったという設定で皆が俺を驚かせようとしているだけなんじゃないかって。そんな都合の良い話あるわけがないのだけれど。 こんなにも空閑の近くにいるのに、遠く感じるとは思わなかった。 コーヒーを飲み切って、席を立ち店を出た空閑はまた元の道へと戻っていく。きっと、先ほど寄った花屋に行くのだろう。 「あれ?空閑くん…?」 不意に声を掛けれられ空閑とともに後ろを振り返る。 「母さん…」 随分やつれた母さんが、買い物袋を持って立っている。 母さん、久しぶり…と声を掛けようとした瞬間、隣にいたはずの空閑がいない。振り返ると、空閑は走り出しておりそのまま俺も引きずられるようにして母さんから離れていく。 「く、空閑…!?どうしたんだよ!」 俺は、やつれた自分の母親よりも顔色を真っ青にして走り出した空閑の方が心配で堪らなかった。それでも、俺の声は届かない。 運動神経がいいはずの空閑は、嘔吐きながら息を切らしている。 「空閑…?どうした…?」 地面が濡れ、どんどん色が濃くなっていく。通り雨だろうか、先ほどまで雨が振る様子なんて一切なかったのに空閑の身体を冷やしていくのがわかる。それでも、雨宿りする様子なく、歩き始めた空閑の前に回って説得を試みる。 「雨、振ってるぞ!空閑、早く雨宿りしなきゃ、風邪引くぞ!お、おい!」 とりつかれたように歩き続けた先は、俺達が約束をした場所だった。
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