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01 遠野編
間近で見ても綺麗な顔をしているな、と思った。
それと同時に不安になる。
どうしてオレはここにいるんだろう、と。
「そんなに見つめないでくれ」
凝視していた相手が、そんな言葉と共にこちらを向いた。
目が合ったのは一瞬で、オレはすぐに顔を逸らしてしまったから相手の表情までは見ることはできなかった。
だけどきっと、笑っているに違いないと思う。
「別に、見つめていた訳じゃないです」
強がりにしか聞こえない言い訳をして、泳いでいる目を気付かれないようにその人とは逆を向いた。
「へぇー」
見透かしたようなわざとらしい声が聞こえて、オレはちらりとその人を見た。
案の定、バレバレの嘘を見抜いたような表情を向けられていた。
いま、自分が置かれているこの状況が不可思議でならない。
生徒会室の中央にドンと置かれた長机の端に座らされて、生徒会の一員でもないのに文化祭に向けた諸々の作業を手伝っている。
オレの向かいに座っているのは、三年生で副会長の大橋征吾さんだ。
関係の無いオレを連れて来て、「ここにいろ」と意味不明な命令をする人だ。
最初は本当に「いる」だけだったけど、それだととても居心地が悪いので、生徒会の人たちの手伝いをするようになった。
コピーとか、荷物運びとかから始めて、最近では打ち合わせの時に意見を求められる事もある。
オレ、4月に入学したばかりの一般生徒なんだけど。
不思議な事に、誰も疑問に思ってくれない。
それはきっと、征吾さんの所為だ。
何故そう思うかと言うと、オレが生徒会室に連れて来られるまでは、征吾さんはオレと遊ぶ為に生徒会をサボっていたから。
部活にも委員会にも出身中学にも接点は無い人なのに、入学してから校内で一番時間を共にしている人でもあるのだ。
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