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近所の小学生が帰り道にくれたの、数粒のヒマワリ種を。
食べてしまおうかしらって思ったけれど、悪い気がして土に埋めてみた。
芽が出たわ、案外すぐに。可愛らしいのよ?種の皮を頭にかぶって緑色の双葉がぴょこんと出てきたの。
そしてあっというまに私と同じ背丈になった。
私は彼に言ったの、ヒマワリの種を植えたのよって。
そしたら彼も一緒に植えたいって、すぐに買って来たヒマワリの種をアパートの花壇に埋めたの。
彼のヒマワリも大きくなった。そして大輪の花を咲かせて種をつけた。
私たちはお互いの種を送りあったの。
来年は君が育てた花の種を一緒に植えようって。
私は少し早めに次の種を植えた。庭一杯、歩けないほど沢山のヒマワリを。私のヒマワリは今年も立派に花をつけた。みんな朝日の方、東の空に顔を向けてお行儀よく並んで咲いた。
そろそろ種を植えないとねって話をしたわ。それっきり彼からの連絡はない。
私の庭のヒマワリは芽が出て、伸びて、咲き誇って。けれど彼からの連絡はない。
最初に咲いたヒマワリが種を付ける頃、彼が亡くなったと聞いたの。悲しかったわ。君が育てた花だから綺麗だって、君と共に育てる花だから愛おしいって、彼はもう2度と言ってくれない。
この花達も彼は見てくれない。
私は庭一杯のヒマワリを全部抜き取って山にした。それ以来、庭に花が咲くことはなくなったの。
それから数年後。
一枚の写真が届いた。
弟が生前蒔いたらしいヒマワリが今年も花を付けましたって。そこには沢山の大きく太陽のようなヒマワリと、ツンと薄い黄色に赤が混じった少し小さいヒマワリが元気いっぱい朝日を浴びている写真でした。
私はもうずっと目を向ける事もなかった庭先に出ました。
庭の片隅、ずっと日陰のそこに、やせ細ったヒマワリが一本かろうじて黄色かなと思える蕾をもたげ、どうにかそこに立っていました。
それはとても弱そうで、けれどたしかに生きていて。
私は思いました。
来年はこの花の種を庭いっぱいに咲かせてみせると。999本のヒマワリを。
生まれ変わっても必ず貴方を愛します。999本の黄色い花を貴方へ。そして私へ。
FIN
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