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610. 帰宅した母親
昼食を食べ終わると、静香は干していた布団を取り込んだ。
「お母さん?疲れたでしょ?布団取り込んだから横になって。
今、ベッドつくるから!」
母親はソファに座りテレビを見ていた。
「静香。ありがとう。そうね。疲れたわ。」
部屋に戻りパジャマに着替えるとカツラを取って帽子をかぶる。
やはり、痩せた母親の姿は病人のようだった。
家に帰ったからとすぐに元の母親の姿に戻るわけではなかった。
母親を寝かせると、静香は憲一の布団を憲一の、部屋に運んだ。
それを見ていた旦那も自分達の布団を運び出した。
「あ。よっちゃん。ありがとう!」
静香は4人分の布団を運ばなければならないと思ったのに、旦那は自分と静香の分をせっせと運んでいた。
旦那は自分の布団と静香の、布団をピッタリとくっつけていた。
「静香。悪い。俺もちょっと昼寝するよ。
昨日の夜、社宅で飲みすぎてあまり寝てないんだ。」
そう言うと、旦那は本当に寝不足なのか、すぐに睡魔に襲われていた。
それを見ていた憲一も
「僕もお母さんのお布団で寝ちゃおうっと。」
と、言いながらお父さんと一緒に寝たかったようで、静香の返事も待たずに静香の布団にもぐり込む。
「もう!私の布団で!憲一は自分の部屋で寝れば…。」
そんな事を言ってる間に、親子2人は夢の中だった。
まあ、無理はないかな。1ヶ月か2ヶ月に一度の父親の帰省なのだ。
一緒にお風呂は入っても、一緒に寝るという習慣は昔はあったけど、憲一の部屋ができてからはなかったから。
静香は夕飯に向けて、病院からもらった母親用の食事のレシピを見ながら、夕飯の準備を始めた。
そこには刻み料理のレシピが書いてあった。
『なるほど。野菜は消化良いと思ってたら茹でて刻まないとダメなんだ。
肉より魚がいいんだ。あ。ミキサーが必要だね』
そんな事を考えながら、準備に結構な時間がかかっていた。
2時間位経った頃、旦那が起きて襖を開けた。
「美味しそうな匂いだな。今夜はなあに?」
旦那が冷蔵庫からペットボトルの水を取り出して、飲みながら静香が居る流し台に近づいて話した。
「ん。母親のきざみ料理を使っていたの。
私達は、けんちん汁とマカロンサラダと唐揚げよ。
よっちゃんは明日月曜日だから、夕飯食べたら社宅にもどるんでしょ?」
「え?さっき俺、静香に言ったよな?
明日は会社は有給休暇取ったって。
だから、今夜は泊まって行くよ?
静香とも久々にしたいし…。いいよな?」
静香はその言葉にドキッとした。
できれば旦那とはしたくなかったからだ。
「え?そうなの?明日会社休んだのね。」
ちょっと、憂鬱な顔を静香はした。
「なんだよ。俺は社宅に帰った方がいいのか?
亭主元気で留守がいいって言うもんな!」
それを聞いた静香は
「そんな事言ってないでしょ?
今、母親のレシピに振り回されてたから色々悩んでいただけよ!」
旦那は静香の肩を抱くと耳元で
「わかった。じゃあ、今夜な」
と、ささやくとソファに座ってテレビのスイッチを入れた。
一昨日、飯田としただけに、旦那とはしたくなかったから、お酒を沢山飲ませて酔っ払らせて、寝させる作戦に出る静香だった。
夕飯の時間になると、憲一と母親は部屋から出て、食卓の椅子に座った。
「わあ。今夜は唐揚げだ〜♪」
母親には静香が別にお善で運んできた。
きざみ料理のマカロニサラダと煮魚とお粥と皆と同じのけんちん汁だった。
「あら。美味しそうね。マカロニサラダも細かくハサミで切ってくれたの?
煮魚はカレイ?食べやすく身をほぐしてくれたのね。
お粥も作ってくれて、大変だったわね。」
静香は笑顔で
「私ができる範囲で作るから大丈夫よ♪
今日と明日は会社は休みだし、来週から忙しくなるけど、作り置きすればさほどではないわ。」
結構大変だが、母親に心配させまいと静香は配慮してそう答えた。
「胃が慣れるまできざみ料理をお願いしたいけど、1ヶ月も過ぎれば普通のご飯で大丈夫だって看護師さんが言っていたから、この1週間は静香に、作ってもらうけど後は自分で作るから大丈夫よ。ね?」
「え?お母さんが自分で?」
「そうよ。いつまでも静香に頼っていても病人のままになってしまうから。
来週からは病院からもらったレシピ本、私にも見せてくれる?」
静香はレシピ本を母親に渡した。
丁寧にレシピ本を1ページずつめくる母親の姿が印象的だった。
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