459. 白石加奈子の父親がわかる

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459. 白石加奈子の父親がわかる

白石は古い日記をバッグから持ち出して、静香に読ませた。 白石の母親の名前は章子。 『章子が不敏でならない。 まだ、花も実もある22歳の若さでててなしごを生むなんて。 相手は事故がきっかけで付き合った間柄だと言う。 章子は保険証を持っていなかった。 縫製の会社は社会保険の完備がしっかりしていなかった。 引っ越して間もなかったのもあるが、俺がお金が無くて、1年間保険料を滞納してしまった為に、すまない。 だけど、こっちは被害者なのだから向こうに全額支払わせばいいものを! 学生だからと言って… バイクに保険はかけてないからと言って… 同級生の中学校の事務員の樫村の健康保険証を借りて、樫村になりすまし、縫製会社は中学校の直ぐ隣だったから、校庭の裏庭を抜けて門から出て、さも自分は学校の事務員と思わせるように仕組んでいた章子だったって、後から樫村さんに聞いたときはショックを覚えたよ。 それが、いつの間にかそのまま付き合っていたなんて! 妊娠までさせられて! そいつは高校を卒業すると板前になると東京に行ってしまって… 妊娠したのが気が付いたのは、そいつが東京に行った後だと言う。 なぜ!そいつの親に訴えないんだ! 章子はバカだ!生まれた子供がもっと可愛そうだ! どうして、身ごもったまま仕事を辞めて姿を消したんだ。 いくらでも協力するのに! 章子?友達の樫村さんに聞いたら、東京に行ったと聞いた。 板前の彼氏の所かと思ったら、違うと言う。 俺は心配で眠れぬ夜を過ごしているんだよ? 連絡先が分かればな。 樫村さんが、章子の住んで居るところを隠しているのか、本当に知らないのか分からないが、俺は兄として心配しているよ』 日記の1ページを読んで、静香も震えた。 「え?事故?尚ちゃんのお父さんが初恋の彼女の事、加奈さんは私に話してくれたよね? 父親じゃなかった。彼女の名前は樫村だったって… え?どう言うこと?」 「そこに書いてあるだろ? 保険証がなかったから、樫村になりすまして通院してたんだろ? だから、多分、チーフの父親が私の父親だ!」 そう言うと、白石は静かに泣き出した。 「同級生の樫村って人は、もう死んでるよ。母親が死んだとき駆けつけてくれた親友だ。 私を見るなり黙って抱き締めてくれた人だ。 あの人の旧姓なんて知らなかったから… 結婚して名字が変わっていたから… あの人は…樫村さんはきっと全てを知っていて、私を抱き締めてくれたんだ。 きっとな…もう、母親の過去を知る人は誰も居なくなった… 居るとすれば…チーフの父親だけだから。 でも、今更 『お父さん。実はあなたの初恋の彼女は白石章子です!私の母親なんです!』 って言ったって…もう、遅いし、何も知らずにいた方が……幸せだよな?」 肩を震わせてる白石を静香は黙って、抱き締めてあげることしか出来ないでいた。 飯田の父親の初恋の相手は『樫村晶子』ではなく、『白石章子』だった。 昔は同級生なら、保険証のなりすましも出来ただろうし、保険料未納なら、全額支払わなければ白石章子の保険証は作ってもらえなかった時代だ。 どれくらい時間が経っただろう。 白石は泣き止み、静香に 「とにかく、父親がわかっただけで私は幸せだ♪ それでな、この事はチーフには絶対言わないで欲しい。 店で会わせてくれたのが、最初で最後にしたいから! 今、病院に行った所で理解に苦しむだけだろうからな。 それに、DNA検査も出来ないしな。 本当に飯田の子供かと言う証拠はない。 (今ならいくらでも親子か親子じゃないかはDNAで簡単にわかる時代だけどね) ただ、事故した相手は樫村ではなく、白石って事だけだから。 ただ、2人で映っている写真があれば良かったんどけどな。 それと、叔父の日記に母親の相手の名前が書いてあれば、証拠にもなったのに… この事は私と静香だけの話にしてくれよ! いいな!」 静香は涙を流しながら、頷いた。 もう、零時を過ぎていた。 2人は床についた。 「静香のお陰でぐっすり眠れる。 ずっと、話したくて… でも、静香も母親の事があったから…遠慮した。 だけど…どうしていいか分からず、毎日眠れなかった…」 白石はそう言うと、すやすやと眠りに入っていた。 聞いた静香は眠れないでいた。 尚ちゃんと再婚したら…お姉さんって事になるのよね? だけど、尚ちゃんにそれを一生話せないって… 結構辛いものよね? 尚ちゃんに秘密を持つなんて… 複雑過ぎて、眠れない静香だった。 もし…もしも、飯田と不倫していることを知られたら… 多分、罵倒して引き裂かれる。 姉として、父親を悲しませる思いをさせたくないと思うだろう。 出来れば、白石に父親が誰だか分からないままで居て欲しかった。 静香の味方でずっと居て欲しかった… いつか、飯田との事を話して世の中で1人くらい、静香達の理解者になっていて欲しかった相手だった。 『もう、加奈さんには私と飯田との事は打ち明けられない…』 静香は白石との間に、見えない壁を作ってしまった日になった。
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