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460. 朝食のフレンチトースト
次の朝。
あまり眠れなかった静香は、洗濯機を回して、雨戸を開けて外に出た。
白石はまだ寝ていた。
この1週間眠れなかった白石は静香に打ち明けて、気持ちが落ち着いたのかも知れない。
やっと眠れるって言ってたから。
『私は眠れなくなってしまったけど…
尚ちゃんにも加奈さんにも、秘密を持ち続けなければならないと思ったら、ため息しか出なくなったわ。』
清々しい青空と裏腹な気持ちの静香は、大きなため息をしたのだった。
静香が洗濯物を干し終わり、台所に立つと母親に持っていくイカ飯を炊飯器に入れた。
『朝はパンでいいよね?
ご飯作れないから。』
静香はフレンチトーストを作ることにした。
バターのいい香りが部屋中に広まって、憲一と白石は起き出した。
「いや~♪よく寝た〰️。
おはよう♪静香。
お。なんだ?やっぱりフレンチトーストか?
バターのいい香りで目が覚めたよ♪」
白石はフレンチトーストが作れなかったから、静香の隣で見ていた。
「へえ~。玉子と牛乳を混ぜてフライパンに入れるのか~♪」
「あ。加奈さん。砂糖も入れるのを忘れないでね♪」
「うん。わかった。後でメモするから、初めから教えてくれるか?」
「わかったわ。加奈さん。顔を洗って椅子に座って待っててね。」
「おう。」
本当に尚ちゃんと同じ。
姉弟だから仕草も似て当たり前なんだね。
静香は飯田と白石の比較の事は、思ったことを口に出さないように努めることにした。
憲一もドタバタして起きてきて、白石と一緒に顔を洗っていた。
3人はテーブルについた。
「いただきま〰️す♪」
「今朝はフレンチトーストしか出来なかったわ。
今、みよばあに持っていくイカ飯炊いてるから(笑)
それとね、加奈さん。
イカ飯作った後、炊飯器の釜がイカの匂いが取れないの。
だから、一度釜に水をヒタヒタに入れたら、漂白剤を入れて1時間は浸しておいてね。
ご飯に匂いが移らないようにね。」
「あ。そうか。そうなんだね。
洗剤だけではダメなんだ。」
「ええ。臭い消しはやっぱりキッチン漂白剤だわね。」
「おう。わかった。」
白石はフレンチトーストを食べ終わるとメモを取り出した。
「イカ飯を作った後の臭い消しはキッチン漂白剤と。
えっと。後、フレンチトーストの作り方を教えてくれるか?」
「それじゃ、僕が教えるね。」
「え?師匠が教えてくれるのか?」
「うん。だって、お母さんのやり方はインスタント過ぎて美味しくないからだよ。」
「え?憲一!ひど〰️い。何それ!」
「憲ちゃん?静香のフレンチトーストは美味しかったぞ?」
「だって、トーストと一緒に牛乳が入った玉子をかき回した液をすぐにフライパンに入れちゃうんだもの。
本当の作り方はね。
4枚入りの厚切りのパンの1枚に対して、玉子を1個、牛乳をコップ半分。砂糖大さじ一杯を入れて混ぜ合わせた液体にトーストを1時間浸しておくやり方が正しいんだよ?
そして、浸したパンをフライパンにバターを入れて両面焼くの♪
これはマー君のお母さんから教えてもらったんだ♪」
「え?そうなのか?
パンを、溶いた玉子に浸すのが本当なのか?」
「だって、8枚切りのパンだから浸さなくても、一緒にフライパンに入れても染み込むわよ!
裏ワザ使ったもの!」
「裏ワザ?」
「うん。パンに液体が直ぐに染み込むように、フォークでパンに穴を開けたの♪」
静香は憲一に反論した。
「お家で食べる分にはいいけどさ。
なんてったって、最後にかけるメープルシロップがあるからどんなやり方でも、美味しく仕上がるから。」
「憲一はますます口が達者になってきたわね!
それじゃ、今度から朝食は憲一に作ってもらおうかな?」
「え〰️。やだよ〰️。
そしたら、ますますお母さんは何もやらない主婦になっちゃうじゃん!」
「まったく、あー言えばこーなんだから!」
アハハハハハ。
白石が笑い出した。
「なあ。憲ちゃん?
何でも言える親がいるってことは幸せな事なんだぞ。
私にはお父さんもお母さんも居ないんだ。
憲ちゃんの素直さと明るさは、愛情たっぷりの家族に支えられてるからなんだよ。
私は施設にいたから、よくわかるんだ。
愛情が無い親に捨てられた人間と、愛情たっぷりに育てられた人間は、世界観が違うんだ。
境涯も違うんだ。
思考も哲学も人を疑わない性格もね。
憲一は人を労る気持ちだけは持ち続けてくれよな。
岡野家と関根家を守っていかなくちゃいけない任務があるけどさ。
明るく、優しく、それでいて心は強く持っていてくれよな?」
「うん!わかったよ♪加奈お姉ちゃん♪」
憲一の頭を撫でると、白石は帰りの支度を始めた。
「憲ちゃん。もし、もしもだよ。炊飯器で作るけど、うまくいかなかったら鍋に変更することは可能か?」
「加奈お姉ちゃん。分量間違えなければ絶対大丈夫だよ。
失敗した時は、味付けの醤油とみりんを鍋にかけて煮詰めて出来た液体を、イカ飯の上にかけると美味しく見えるよ♪」
「お。そうか。そうだな。
盛り付けで美味しくなるか。」
『誰かにお裾分けでもしたいのかな?』
そう思った静香だったが、何も聞かずに玄関先で挨拶して、白石は帰っていった。
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