278人が本棚に入れています
本棚に追加
/675ページ
464. 世の中は狭い
飯田は物足りなそうに
「もう一回いい?」
「駄目よ。いつも2回目は時間かかるじゃない?
そのうちバイトの2人が来ちゃうわ。
金曜日は早く終わるの?
今はカラオケしてないんでしょ?」
「それがさ。お袋の友達はやっぱ、親父抜きでもカラオケしたいみたいでさ。
結局、今週から
『奥様を慰め会』とか言っちゃってさ。
カラオケやることになったようだよ。
まあな。お袋も親父の介護で年取るのは、こっちとしても辛いものがあるしさ。
親父にも、早くリハビリで直してカラオケ大会参加しないと!
親父の歌を待ってるよ!
って言ってあげたいしな。」
「そうよね。目標が無いと人って駄目になってしまうものね。」
「ん。だから、今度の金曜日はいつもの所で?
いいかな?」
「わかったわ。いつもの所でね♪」
静香は残った皿洗いを始めた。
勝手口の鍵を飯田が開けると、バイトのふたりがちょうど来た所だった。
いつもより5分早かった。
ギリギリセーフだった。
2人は胸を撫で下ろした。
2回目してたら、間に合わなかった…
「あ。チーフ!おはようございます!」
「あ、ああ。おはよう。今日は早いね。」
「今、三者面談で短縮授業なんです。俺達の面談は金曜日にしましたから大丈夫です。」
「気を遣ってくれてありがとう。
やっぱり、金曜日は早く閉まって正解だな。
カラオケ大会は今週から復活みたいだ。」
「そうなんすね?それじゃ、母親の姉も喜びます♪」
「え?お母さんのお姉さん?
え?そうか、そうだったんだ。」
「はい。俺もこの間、叔母さんが遊びに来て初めて知ったんすよ。
世の中狭いと思いました~♪」
『うわ~。ますます気を付けないと!
不倫が知られたらたちまち、お義母さんの耳に入ってしまうわ。』
皿洗いが終わると、
「それじゃ、お先に失礼します!」
「おう。お疲れさん。」
「お疲れ様でした~♪」
いそいそと、静香は帰って行った。
そして、すぐに金曜日が来た。
いつものワンコインで2人は待ち合わせた。
飯田の車に素早く乗り込むと、いつものラブホに直行した。
「今日は生理になっちゃったよな?
バスルームでするしかないよな?」
「え?あ。まだ生理は来ない…
遅れてるのかな?」
「え?まさか妊娠?」
「え?まさか!」
思い当たるとすれば、旦那とした時?
排卵日に中だし駄目って言ったのに間に合わなかった時かな…
え〰️!それは困る〰️。
ちょっとタンマー!
でも、その事は尚ちゃんには言えないよ〰️。
「俺…中だし結構してるよな。
妊娠しても仕方ないかもな。
その時は責任取って、旦那に殺されるの覚悟して静香を奪うよ!」
静香は青ざめて、言葉を失っていた。
『尚ちゃんの時は排卵日前と排卵日後1週間は避妊具を着けてもらっているし、今月は排卵日前後1週間以内は外だししてもらっている。
まあ、絶対に外だしは妊娠しないって訳じゃないけど…』
静香は毎朝、婦人用体温計で基礎体温を測っていたのだ。
生理の前は基礎体温が低くなる。
なのに高体温のままなのだ。
もし、もし妊娠していたら?
例えば、来月離婚できたとしても(出来ると思えない現状だけど)
離婚して、半年は再婚できない。
もし、再婚出来ても、このお腹の子供は前の旦那の子供として生まれることになる。
離婚して300日以内に産まれた子供は元旦那の実子扱いに戸籍はなるのだ。
なので、どっちにしても今、もし、妊娠していたとしたら旦那の子供と戸籍上なってしまう。
ホテルに着いて、ボソッと静香がその事を言ったら飯田はがっかりしていた。
「そうだ。そうだったな。今、静香が離婚しても180日は結婚出来ない…
*現在は民法733条の改正により、再婚禁止期間は6か月間から100日間に短縮され、かつ「離婚時に妊娠していないことを医師が証明した場合などには、離婚から100日以内であっても再婚を認める」という条文が新たに盛り込まれた。
そんな中で産まれた子供は旦那の実子と戸籍上されちゃうんだったな。
そんなの嫌だよ!
俺の子なのに!」
飯田は自分の子供だと信じて疑っていなかった。
静香は黙ってため息しか出なかった。
最初のコメントを投稿しよう!