467. 母親の笑顔

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467. 母親の笑顔

次の日。 いつものように憲一と朝ごはんを食べて、仕事に出掛けて行った。 憲一には大腸ポリープを切除したから一泊の入院とだけ伝えた。 飯田にも、仕事は普通に出来るが入院した母親を迎えに行く旨を話した。 静香は誰にもすい臓癌かもとは伝えなかった。 静香自身、信じられないし、信じたくもなかったからだ。 ただ、白石だけは何となくだが、静香の母親の様態は思わしくは無いのだろうと感ずいていた。 「静香?今日は私が皿洗いを引き受けるから、賄い飯が食べ終わったら帰りなよ? 早く、お母さんを迎えに行ってあげなよ。 向こうは首を長くして待ってると思うからさ♪」 「え?いいの?」 「うん。今日は夜7時までにラウンジに入れば間に合うからさ。」 「白石さんがバトンタッチしてくれるなら、岡野さんは上がっていいよ。」 飯田の一言で静香は頷き、食べ終わると帰って行った。 白石が皿を洗い終わると 「静香の母親の病気が思わしくなかったのかと思うよ。 私は小さい頃から、人の顔色ばかり伺っていたからわかるんだ… いつもの静香じゃなかった。 人は話したくないと…自然に無口になるから… 私は静香に沢山助けられた。 今度は私が静香を助けてあげる番だと思っているよ。 それじゃ、チーフ帰るね。」 「あ。あぁ。お疲れ様。」 「お先に失礼します。」 パタン。 飯田は1人になって、もしもの事を考えていた。 静香自身の妊娠の問題。 そして、母親のこれからの看病の問題。 「1人、パート入れるか…お袋に半年間だけでも、10時から2時までお願いするか… やっぱ、1人パートを考えないといけないな。」 静香の事を真剣に考えると、今は静香自身の体と母親の体を第一に考えていかないといけないと思った飯田だった。 「とりあえず、パートが見つかるまでお袋にお願いしよう!」 飯田は飯田なりに静香に気を遣って、次なる一手の行動に出る事にしたのだ。 病院ではーーーーー 母親は早く静香が病院に来てくれた事を喜んでいた。 全ての結果とそれに対しての治療方法を、また来週の月曜日に病院に来ることになった。 すい臓癌なんて…きっと何かの間違いよ! 静香はハッキリわかるまで、信じようとはしなかった。 「あ~。やっぱり家が1番いいわ~。 たった1日家を留守にしたけど… お花の水や金魚のエサを心配しちゃたわ。」 「そっか。ごめんなさいね。 そこまで気が付いてあげられなくて… 言ってくれれば良かったのに。」 「大丈夫よ。一泊するかもって、わかっていたから、多めに水も餌もあげたから。 今度、もし、入院するときは静香にお願いするわ。」 「もう!お母さんはお薬で治ると思うから。 もしもなんて言わないで!」 静香はどうしても、癌の文字を頭から消そうとしていた。 「静香?お母さんはどんどん年を取っていくのよ? いつかは入院するときもあると思うから、言ったのよ? 美咲がツアコンで海外を飛び回っていて居ないから… 静香だけに色々背負う事になるけど、長女だからお願いしてるのよ?」 「あ。そうね。そうよね。感情になりすぎてごめんなさい。 お母さん?これからも困ったら直ぐに言ってね♪ 何でも言うこと聞いてあげられる娘になるからね♪」 「あら?ずいぶん今日は優しいのね?雨でも降らなきゃいいけど(笑)」 2人は笑って、静香は夕飯の用意をして憲一と3人で実家で食べる提案をしたのだった。 「退院祝いでお寿司を取ったわ(笑)」 母親は憲一が来るならと、寿司屋に電話をしたのだ。 「お母さん?退院祝いするなら私がお金を出すわ?」 「いいのよ。これから病院にいくたびに世話になるんだから! 今日は手抜き。それに病院食は美味しくないから… お寿司が食べたくなっちゃったのよ♪」 静香は黙って頷くと、憲一を迎えに自宅に向かった。 今夜は実家で家族水入らずで、夕飯のお寿司を食べた。 やっぱり、憲一がいると食卓は明るくなる。 すい臓癌なんて、なんかの間違いよ! こんなに美味しく笑いながら食事できるんだもの。 母親の笑顔をしみじみと見つめる静香だった。
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