468. 飯田との大事な話

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468. 飯田との大事な話

その週の金曜日。 白石が帰り、静香と二人っきりになった飯田が 「静香?今日は今から時間取れるのか?」 静香はこの頃、妊娠かもしれない体と母親の病気の事でその気にはなれないでいた。 「金曜日なのね。1週間が早いわね。」 飯田も静香の言葉で乗る気が無いのが、伺えた。 「大事な話があるんだ。 車の中でもいいよ。 静香も気持ち的に参ってるみたいだから…いつもの所で待ってるからね。 今日はホテルには行かないから。」 大事な話と聞いては、静香も頷くしかなかった。 ワンコインに静香の車を置くと、飯田のクルマに乗り込んだ。 「大事な話ってなあに?」 「うん。ここではなんだから、いつもの駐車場まで行くね。」 飯田は車を走らせると、大介が勤めていた今は使っていない駐車場に駐車した。 「静香?お袋さんの病気は結構悪いのか?」 「え?」 「静香は1人で悩んで、1人で決めてしまう時があるからさ。 俺はまだ夫ではないけど、これでも静香を未来の奥さんだと思って話をしているよ。 静香の力になりたいんだ。隠し事無しで行きたいと思ってる。 だから、心配な事があるなら俺にも悩みを分けてくれないかな?」 「尚ちゃん…」 静香はその言葉で、ポロポロと涙が溢れだして止まらなくなった。 「検査…母親の胃カメラで…十二指腸潰瘍とすい臓が…癌かもしれないって… 細胞の一部を取って…調べるって… そして、今度の月曜日に全ての結果がわかるの… 母親は胃カメラを飲むと嘔吐が激しかったから… 麻酔で寝ていて…本人は知らないの。 尚ちゃん。私…赤ちゃん…こんな状況じゃ…おろそうと思ってるの… 生んでも旦那との子どもになっちゃうし… お母さんの看病もしなくてはいけなくなるし… お母さんに妊娠したことがわかったら… 離婚するってわかったら… お母さんが悲しむ事になるし、お母さんに悲しい思いをさせてしまうから。 憲一だって…なんて言われるか… こんな状況で…どうしていいか、わからないの…」 助手席で、静香は顔を両手でおおい泣き崩れた。 飯田は静香を抱き寄せると 「そうか。お袋さんはすい臓癌かもしれないんだな。 俺のお袋も乳ガンだった。 でもさ。今は医学も発達しているんだから、すい臓癌だってきっと治るよ! お袋さんが治って、後で静香が赤ん坊をおろしたなんて知ったら、お袋さんは自分を攻めると思うよ?」 「え?」 「俺の赤ん坊。生んでくれよ。 一旦は今の旦那の子どもとして籍を入れることになるんだろうけど… お袋さんが癌の治療をして、治ったらでいい。 そしたら、俺、アパートを借りるから憲一と出て来いよ! その間、憲一を俺が説得させるよ。 男同士の話をする! 駆け落ちだけは避けたいから! 生まれた赤ん坊が1歳になるまでは、離婚の決着も着くだろう? 旦那だって、初めは別れないっていう言うに決まっているけど、自分の赤ん坊じゃないと知ったら、身を引くだろう? 憲一は長男だから、渡さないって云われるだろうけど… 憲一が親を選ぶ権利はあるから。 憲一がやっぱりお父さんと生活するって言うなら、仕方ないと思っている。 2度と母親と会えないなんてやり方は、絶対しないから! 憲一には、俺と父親の間を行ったり来たりするような仲にしていきたい! これから、短くて1年。 長くて2年。その間に着々と事を運ばせよう!な?」 「尚ちゃん…いいの? お母さんの病気が治るまで… 赤ちゃんを生んでも、2年も待っててくれるの?」 「ああ。静香と赤ん坊を失うくらいなら、2年なんてあっという間だ! その間、俺たちは会えない訳ではないだろう? アパートは静香が出産するまでに、マリオに見つけてもらって、俺が初めに1人で住んでるから!な?」 「尚ちゃん…」 「でさ。これ。お産の費用とお袋さんの看病の費用。 仕事出来なくて、お金に困るだろ?」 そう言うと、飯田は仕事にお金の入った封筒を渡した。 「え?お給料?なに?このお金?」 封筒の中には100万円の札束が入っていた。 「これから1年間は働けなくなるかも知れないだろ? 1年分のお給料先払いだよ♪」 「ダメよ!尚ちゃん!こんな大金!貰えないわ! それに私は尚ちゃんのお店を辞めるつもりも、休むつもりもないわ! 1ヶ月に4日位は休むかも知れないけど… あと、産休で1ヶ月位は…でも! 前払いなんて…」 「とにかく、預ける! そのお金は静香の自由だ! 俺と必ず一緒になるって約束のお金と思ってくれるか?」 「尚ちゃん…。わかったわ。 とりあえず、預かるわ。アパートに住むのにもお金はかかるから。 確かにお産も、母親の病院のお金もかかるけど… わかったわ。結納金として、お預かりします!」 「うん。そうしてくれるか?」 静香は少し、悩みが軽くなり、来週の土曜日に帰ってくる旦那とバトルしなくて済むと思うとホッとしたのだった。
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