478. 帰って来た妹

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478. 帰って来た妹

携帯の呼び鈴の相手は妹だった。 あ!美咲だわ。海外から帰って来たのかな? 「もしもし。美咲?仕事から帰ってきたの?」 「うん。今、病院に居るよ。 お母さんが金魚の餌と花壇に水を巻いて欲しいって言っててさ。」 「うん。わかってる。ちゃんとやったよ。 雨戸も開けて空気を入れ替えてる。 お掃除も冷蔵庫の中のチェックもしたよ!」 「そうなのね。流石お姉ちゃん♪ それでね。看護師が上履きはスリッパじゃなくて、かかとがある運動靴のような、紐のない靴をお願いしますって言われたの。 まあ、集中治療室に居る間は靴なんて要らないけどさ。」 「うん。わかった。病院に行く前に靴屋さんに寄ってくよ。 後は何か頼まれ物はあるの?」 「今じゃないけど…本とか雑誌とか体に痛みが無くなったら、読みたいかなって思ってさ。 あ。これは私の意見ね(笑)」 やっぱり美咲は部屋いっぱいに本棚がズラリとあるから、思考が違うと思った。 母親は多分、本なんて読みたくない。 新聞の文字は小さくて、老眼鏡がないと読めないって言ってたし、字が邪魔で読むの面倒っても言っていた。 本よりテレビだと思った。 テレカを後で買ってあげようと思った静香だった。 テーブルの上に老眼鏡が置いてあったので、それを持って行こうと手提げ袋に入れた。 そして、まずは靴屋に向かった。 今までは介護用コーナーなんて、見向きもしなかったが、履きやすい靴がズラリと並んでいた。 いつもの靴より0.5cm大きめがいいよと店員さんに教えてもらって白っぽい靴を買った。 病院に着くと美咲が1階の談話室にいた。 「あ。お姉ちゃん。今、看護師さんに管を取ってもらって体を拭いてもらってるから、ここにいたの。」 「そっか。それじゃ、私もコーヒー飲んでからお母さんの所に行こうかな。」 「それじゃ、コーヒーを買ってきてあげるね♪」 談話室で2人でコーヒーを飲みながら、手術の内容の話をした。 「ええ!そんなに内臓を切ったの?胆嚢も切除して… 普通の健康な体に戻るの? 脂ものの食事は消化できるの?」 「そうね。これから、食事療法は話を聞くことになるわ。 とにかく、1週間は絶食だし、それを過ぎると、おもゆから流動食。普通食は退院頃みたい。 旦那の仕事場の親子さんも同じような手術をして、結構大変だったみたいよ。」 「だったみたい?もしかして、その人の親はもうこの世には居ないってこと?」 「そうね。美咲…すい臓癌ってね。 5年後の生存率低いみたいなの…転移するのも速いみたい… リンパに近いところにすい臓はあるから… リンパ腫が避けられないかも知れないし、ストレスがかかると胃癌になるかも知れない… とにかく、私達はいつも笑顔でお母さんに接して行きましょう!」 妹は黙って頷いた。 2人が集中治療室に入ると、母親は眠っていた。 管が取れて、体を拭いてもらってスッキリしたのかも知れない。 後から看護師が入ってきて 「岡野さんは手術後の経過がいいので、集中治療室は明日出られます。 もう一度聞きますが個室じゃなくていいんですか?」 「母親はなんて言ったんですか?」 「子供の意見に従うって言ってました。」 それって、本当はお母さんは個室を望んでいるのかな? 個室は1日10000円。差額ベッド料は後で戻ることはない。 「お母さんは生命保険に加入してないのかな?」 母親はうっすらと目を開けた。 「保険?入ってるわ。簡易保険…ただ、満期が近いかと思うけど…」 「お母さん?保険証券は何処にあるの?」 「寝室のタンスの引き出しの中よ。 黒いポーチの中に入ってるわ。」 「看護師さん。明日まで待ってもらえますか? 保険があるなら、個室使えるかも知れないので。」 静香は出来れば個室でゆっくりくつろいでもらいたかった。 後残り15日間×10000円=15万円 の出費だ。 今から多分、お母さんの兄弟もお見舞いに来るから、見舞金も入る。 保険が下りるなら、差し引きそんなにかからないと計算したのだ。 「美咲?今日は夕方まで居られるの?」 「うん。明後日からハワイだけど、大丈夫よ。」 「私は保険証券を見てみるから、帰るね。 出来るだけ、個室に居させてあげたいのよ。」 「わかったわ。」 静香は急いで、実家に向かった。 タンスの引き出しに簡易保険証券があった。 え?今月満期?どうしよう。7月にまたいで入院してるのに… 静香は早速、郵便局に電話をした。 6月一杯で満期だけど、7月にまたいで入院する場合は全て入院日数は出ると言う。 たとえ、入院が180日に及んでもだそうだ。 昔、簡易保険は10倍型保険と言うものがあって、亡くなったら 1000万円。満期で100万円と言うものに加入していた。 その場合の入院給付金は10000円出た。 その代わり、入院4日分は負担保だ。 これで、静香は個室にさせてあげようと決意した。
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